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の満月が昇る時
呪いの森
 鬱蒼と生い茂る木々は踏み入る者を拒むように佇んでいる。天を目指すように伸びた枝と葉のお陰で空は見えず、所々隙間から漏れる日の光が森を照らしていた。
 時折聞こえる鳥とも獣ともつかない遠吠えは立ち入る者に恐怖を与えるには十分だ。その例に漏れず、エリシアの顔もまた引き攣っている。
 だがエステルは全く彼女のそんな変化には気付いていない。

「……この場所にある森って、まさか、クオイの森……?」

 辺りを見回しながらエステルは呟く。城にあった本で読んだ覚えがある。
 何分それも古いもので真偽さえ怪しいものだが。

「へぇ、エステルよく知ってるね」

「クオイに踏み入る者、その身に呪い、ふりかかる、と本で読んだことが……」

 城育ちのお嬢様ということで世間知らずなのだろうが、エステルは意外に博識である。
 物騒な噂のお陰で、クオイの森には近隣の人間も滅多に近寄らないという。
 森の奥へと続く道も街道のように舗装されている訳でもなく、正に獣道というのに相応しい。

「なるほど、それがお楽しみってわけか」

 言いつつ、ユーリの足は既に森の中に向いている。
 エリシアも精一杯の強がりで彼の後に続くが、右手と右足が同時に出ていることに本人は気付いていないのだろう。一方のエステルは何やら躊躇っているようで、微妙な表情をしていた。

「行かないのか? ま、オレはいいけど、フレンはどうすんの?」

「……分かりました。行きましょう!」

 砦が通行出来るまで、待っていてはとても間に合わない。覚悟を決めたエステルは力強く頷いた。 生命力溢れる雑草を掻き分け一行は進む。先頭をラピード、これは彼が犬である故の聴覚と嗅覚を持つため、にエリシア、エステルと続き、しんがりをユーリがつとめる。
 エステルが真ん中なのは、彼女が一番実戦経験や諸々で皆より劣るためと魔物に襲われたとしても対応しやすいようにだ。

 ただエリシアも周囲を油断なく警戒しているものの、今度は左手と左足が同時に動いている。
 森の奥に進むにつれ、木々の間から光が射す場所も少なくなり、得体の知れない鳴き声がこだましていた。



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