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の満月が昇る時
今は気付かない振りを
 思わずしがみついてしまったエリシアは恥ずかしくて顔を上げられない。
 ぼこぼこにすると言い切ったのに情けないとも思う。というかユーリにはバレバレだったようだが。ユーリはまるで子供にするように頭を撫でてくれる。

 子供扱いされているみたいで嫌なのだが、ユーリの手で撫でられると何故か安心した。
 落ち着いた所で顔を上げると、彼にしては珍しく何の皮肉もない笑顔のユーリと目が合う。笑われているのに不思議と腹は立たない。

「落ち着いたか?」

「うん、大丈夫」

 頷いた直後、まだユーリに抱き着いたままな事に気付き、慌てて体と手を離す。恥ずかしく顔から火が出そうなくらい動揺していた。
 この年になってとも思うが怖いものは怖いのだ。分かり易く百面相をするエリシアをユーリは笑いを堪えつつ見つめている。
 戦闘の時は頼もしいのに時に見せる一面は年頃の少女そのものだ。

「おし、エステル探しに行くか」

「きっと疲れて座り込んでると思うよ」

 だから今は気付かない振りでもしておこう。
 ユーリはエリシアが付いて行きやすいよう、ゆっくりと歩き出した。


 案の定エステルは地面に座り込んで一息ついていた。隣にはお目付け役のラピードが行儀よく座っている。俯いた彼女は元気がないように見えた。
 聞かなくとも分かるが、砦を通らずにハルルに行く方法は見つからなかったのだろう。

「エステル」

「……ちょっと休憩です。魔物が去るまでこんな場所で待ったりしませんから」

 ユーリが声を掛けても、エステルは目を合わせようともしない。焦るなと言われたことにまだ怒っているのだろうか。

「あっそ。じゃあ、二人で抜け道に行くことにするわ」

「エステル、行こう。……私はあんまり気乗りしないけど、ね」

 ユーリは言うだけ言うと、背を向け入口へと歩き出す。エリシアもエステルを気にしつつ、後ろを振り向きながらユーリに続く。
 正に寝耳に水であったエステルは立ち上がって慌てて二人の後を追った。

「え? 分かったんですか? 待って下さい!」



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