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の満月が昇る時
“あれ”だけは苦手
「けど、あんたらはそこを通らない。ってことは、何かお楽しみがあるわけだ」

 暗にそういう訳である。でなければ何の見返りもなしに情報をくれたりはしないだろう。ユーリにも大体の察しはつく。
 ユーリにしてみれば何があろうとも構わないのだが、隣のエリシアは諦めたような哀愁漂う顔をしている。

「察しのいい子は好きよ。先行投資を無駄にしない子はもっと好きだけど」

「礼は言っとくよ。ありがとな、お姉さん。仕事の話はまた縁があれば」

 手を振ってユーリが歩き出したため、エリシアもまた礼を言ってユーリの隣に並ぶ。カウフマンが思い出したようにエリシアを呼び止めた。
 嫌な予感がして顔だけを動かして振り向く。呼び止めた本人は満面の笑みでこう言った。

「お父様によろしくね」

 流石は幸福の市場の首領だと言うべきだろう。
 一瞬言葉に詰まったがそこはエリシアも仮にもギルドの首領の娘である。いつも父がしているように胸に手を当て優雅に礼をした。顔には余裕の笑みを浮かべて。

「ええ、伝えておきます」

「……血は争えないってこういうことなのかしらね」



「知り合いか?」

「ううん。直接の面識はないけどあっちが知ってたみたい。それは置いといてクオイの森って呪いの森とも呼ばれているみたいで……出るらしいよ」

 知り合いか、と問うユーリに首を振る。エリシア自身はカウフマンと話したことはない。向こうが一方的に知っていたのだろう。獅子の咆哮(レオンハルト)の娘、というのは自分が思うよりずっと知られているのかもしれない。
 ユーリはまだ何か気になっているようだが、エリシアにしてみれば遠慮したい。愛想笑いを浮かべ、どうにか話を逸らす。
 魔物はまだいいが、“あれ”は勘弁願いたかった。そもそも得体の知れない、よく分からないものが嫌なのだ。ユーリはと言えばふーんと生返事を寄越すだけ。

「……もしかして怖いのか?」

「わ、私が? そんな事ない。幽霊でも何でもぼこぼこにしてやるから」

 精一杯笑おうとしているが、顔が引き攣っていることにエリシア自身は気付いていないらしい。
 それがユーリの笑いを誘い、少し意地悪だと思いつつ後ろを指差した。

「エリィ、後ろに何かいるぞ」

 その一言で面白いように笑顔が引き攣った。
 途端、弾かれたように走り出したかと思うと、ユーリの胸に飛び込んで来た。ちょっと遊び過ぎたかと後悔しつつ、子供にするように彼女の頭を撫でてやる。

「冗談だ。悪かった。まさかそんなに怖がるなんて」



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