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の満月が昇る時
幸福の市場
「ねえ、あなた。私の下で働かない? 報酬は弾むわよ」

 情報を求めて砦内を歩き回っていた一行に(というかユーリに)話掛けて来たのは、護衛らしき人物を引き連れた赤毛に眼鏡の女性。
 だが当のユーリは女性を軽く一瞥しただけで問いには答えず視線を逸らす。エリシアはと言えば、またしても内心焦っていた。

 彼女はギルド、幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)の首領カウフマンである。魔狩りの剣を率いるクリントと違い、直接の面識はないものの、獅子の咆哮(レオンハルト)の関係者だと知られれば色々と話がややこしくなる。
 そんなユーリの態度に後ろに控えていた護衛が眉を寄せた。

「社長に対して失礼だぞ。返事はどうした」

「名乗りもせずに金で吊るのは失礼って言わないんだな。いや、勉強になったわ」

「名乗る時はまず自分からが礼儀ですよね。というか私たちを無視してる時点で失礼だと思わないんですか?」

 おどけて言うユーリにエリシアも、エステルとラピードに目を向けて言ってやった。
 一旦はまた隠れようとも思ったが、こそこそしている方が怪しいし、もしばれた時はその時だ。どうせなら堂々としていよう。

「お前ら!」

 いきり立つ寸前だった護衛を女性――カウフマンは差し出した片手で制した。
 怒っている訳ではない。静かに笑っているだけだ。

「予想通り面白い子ね。それと貴女も。確かに先に名乗って置くべきだったわね。私はギルド『幸福の市場』のカウフマンよ。商売から流通までを仕切らせてもらってるわ」

 一口に商売から流通と言っても侮るなかれ、様々な情報に通じてなければならない。
 それは商品の相場であったり貴重な情報であったりと色々だが、下手をすれば魔狩りの剣などよりずっと敵に回せば厄介だ。

「ふ〜ん、ギルドね……」

 ユーリが生返事をするが、ザーフィアスに住んでいる者がギルドの人間にあまり良い印象を持っていないことが分かる。それはある意味エリシアが騎士を良く思っていないことと同じだ。



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