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の満月が昇る時
出会いたくない人
 何やら騒がしい。どうやら騎士と男二人が言い争っているらしく、その内顔に傷のあるフードを被った男が声を荒げた。
 二人とも身のこなしだけを見ても、手だれであると分かる。

「だから、何故ここを通さんなのだ! 魔物など俺様がこの拳でノックアウトしてやるものを!」

 見覚えのある二人を見つけたエリシアは、思わずユーリの背中に隠れた。
 あまり出会いたくない相手である。個人的にもそうだし、立場的もだ。この際、ユーリやエステルに不審に思われても構わない。それよりも今は隠れる方が重要である。

「エリィ?」

「ちょっとこのままでいさせて」

 気付かはしないだろうが、ユーリの肩に手を置いて顔を半分だけ出して様子を伺う。
 端から見れば奇妙な光景だが、エリシアにしてみれば他人の目よりも、あの二人に見付かることの方が色々と面倒なのだ。

「簡単に倒せる魔物じゃない! 何度言えば分かるんだ!」

「貴様は我々の実力を侮るというのだな?」

 騎士がどうにか説得しようとするが、フードの男の隣に佇んでいた鳶色の髪の男が口を開いた。地の底まで響くかと思う声は、騎士を気圧すには十分だろう。
 男は言うなり、背中の剣というには大き過ぎるそれを抜き、正面で掲げる。そして騎士の制止を振り切って渾身の力で地面に叩きつけた。
 衝撃で砂埃が舞い、辺りを砂色に染める。余程力で叩き付けられたのだろう。地面は剣の形に陥没していた。

「邪魔するな! 先の仕事で騎士に出し抜かれた鬱憤をここで晴らす!」

「おい!」

 一触即発の状態に三人に声を掛けた騎士も、他の作業をしていた者もそれを中断して駆け寄った。
 騎士らは果敢にも槍や剣を突き付けているが、仮にもギルドの首領である男にしてみれば烏合の衆同然だろう。

「これだからギルドの連中は!」

 一人の騎士が呆れたように言うが、そこは聞き捨てならない。
 別にギルドに所属している者全員が彼等のように血の気が多い訳ではないのだ。本当に思わずぼやいてしまう。

「ギルドって言うより魔狩りの剣なんだけど……」

「何か言ったか? にしてもあの様子じゃ、門を抜けるのは無理だな。騎士に捕まるのも面倒だ。別の道を探そう」

 心の中で思っていたつもりだが、口に出してしまったらしい。ごまかすためにも、とりあえず愛想笑いをしておくことにした。ユーリの背に隠れたまま、その場を後にする。二人の姿が見えない所まで来ると、ほっと胸を撫で下ろした。



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あきゅろす。
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