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の満月が昇る時
どちらも変わらず
 砦の中にまで魔物が門に体当たりする音が響いて来る。頑丈に作られているため、破壊される恐れはないが、それでも本能的な恐怖を呼び起こされる気がしてならない。
 安心して一息ついた三人の元に助けた男性と母子が歩み寄った。

「娘共々助けて頂いて、なんとお礼を言えばいいか」

「でも本当に無事で良かったです」

 母親は娘と手を繋いだまま頭を下げる。エステルも慌てて同じように頭を下げた。
 エリシアはしゃがみ込むと、優しい手つきで人形を大事そうに抱えている女の子の頭を撫でる。
 女の子は気持ち良さそうに目を閉じると次の瞬間、花が咲くような笑みを向けた。つられてエリシアも女の子に笑い掛ける。
 笑顔が見たいから。ただそれだけでお節介だと思いつつも困っている人を助けてしまうのだと思う。

「怪我まで治してもらって、本当に助かりました」

 男性もまた頭を下げる。魔物との戦闘で分かったことだが、エリシアと同じく、エステルも治癒術を扱うことが出来るらしい。
 エステルはただ守られているだけのお嬢様ではない。剣の腕も騎士に引けは取らないし、治癒術も扱える。実力は言うまでもなく十分だった。
 三人が去った後、気が抜けたのか、エステルはぺたりと地面に座り込んだ。今になって恐怖を感じたのか握った手は小刻みに震えている。

「……みんなが無事で本当によかった。あ、あれ……」

「安心したとたんそれかよ」

 ユーリとエリシアもエステルの隣に腰を下ろした。
 無理もない。彼女は箱入り娘だった訳でこんな経験、初めてだろう。それにしては思い切りが良すぎる所もあるが、無謀ということでもない。

「エステルは何もかも初めてだから仕方ないよ。でもちゃんと自分も大事にしないと。見てて危なっかしいから」

「それはエリィもだろ。オレから見たらエリィもエステルも変わんねえよ」

 エステルを見ていると冷や冷やするというか何というか。後先考えない辺りは昔のエリシアとそっくりであるとは口が裂けても言えない。
 ユーリからすればエリシアも見てて十分危なっかしい。この少女は本当に自覚してないのか。
 人形を取りに飛び出しそうになったり、危険を省みずザギとかいう男の間に割って入ってくるわで、下手すればエステルよりも危険な気がする。



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あきゅろす。
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