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の満月が昇る時
砦の救出劇
「ユーリは女の子を、エステルはあの男の人をお願い!」

「はいはい……」

 後ろからユーリの呆れたような声が返ってくる。それでもユーリだけを危険な目に合わせる訳にはいかない。自分だけ安全な所にいるなんて真っ平御免だ。
 エリシアとエステルは急ぎ、男性と少女の母親らしき女性に近寄った。女性は怪我はないものの、腰が抜けたようで地面に座り込んでいる。

「立てますか?」

「ご、ごめんなさい。腰が抜けて……」

 女性に肩を貸して立ち上がり、早足で歩き出した。
 エステルは足を押さえてうずくまる前に膝をつき、怪我の状態を見る。出血はしているようだが、そこまで深刻な傷ではないことに一先ず息をつく。

「た、助けて……立てなくて……ひっ! 魔物が、魔物が!」

「大丈夫ですよ」

 取り乱す男性を落ち着かせるように声を掛け、術式を展開する。
 両手を前で組んだエステルの足元に現れる魔法陣。治癒魔術特有の金色の紋様が一際強く輝いたかと思うと傷は跡形もなく綺麗に房がっていた。
 ユーリもまた泣きじゃくる女の子を抱えて走る。

「……あ、た、立てる」

「早く避難してください」

 エステルも走り出した男性に続いて、門の中に走り込んだ。見れば猪に似た魔物がシルエットが分かるくらい直ぐそこまで迫っている。
 とその時、ユーリが助け出した少女が門の外を指差して叫んだ。

「お人形、ママのお人形!」

 少女が指を差した先には確かに、人形が落ちている。本来なら取りに行くなんて自殺行為だ。それは分かっている。
 エリシアは反射的にエステルが飛び出そうとするのを止め、地面を蹴って走り出そうとする。
 だが誰かに強引に手を掴まれそれも叶わない。

「お願い、行かせて!」

「ここで待ってろ!」

 ユーリは掴んでいたエリシアの手を離し、またも外へと疾走する。背後から聞こえる声を無視して。ユーリが行かなければ彼女が行っていただろう。
 もう一刻の猶予もない。急ぎ、ぽつんと落ちている人形を拾い上げた。

「ったく、めちゃくちゃ目立ってんじゃねえか!」

 しかしぼやいている暇はない。既に門は閉まり掛けている。
 背には魔物の大群、前は閉門間近の大門。ユーリが助かる術はただ一つ。

「「ユーリ!」」

 二人の声を受け、人一人がどうにか入れるかという隙間にユーリは滑り込んだ。と同時に大きな地響きを立てて門が閉じられた。



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