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の満月が昇る時
魔物襲来
「早く入りなさい! 門が閉まるわ!」

 頭上にある見張り台から女性の声が響く。
 遠くに見えるのは、巻き上げられる砂塵。門を目指して必死に旅人や行商人たちが走り込む。

「……よし、待避は完了した! 門を閉めろぉ!」

 同じく見張り台に立つ騎士が叫ぶが、明らかに外に残された人々がいる。今門を閉めれば逃げ遅れた人々は、確実に間に合わない。
 それに気付き、隣の見張り台から鋭い声が飛んだ。

「閉門を待ちなさい! まだ残された人が……」

 騒ぎを聞き付けてか、門の前には多くの人々が集まっていた。エステルとラピードの姿もある。
 魔物大群により砂埃が舞い上がる光景を呆然と見つめ、エリシアはぽつりと呟いた。

「あれ、全部、魔物なの……」

 エリシアもまたエステルとは違う意味で驚いていた。本来ならこれほどまでに魔物が出没する季節ではない。
 事実、エリシアがここを通り抜けた数日前は、別段魔物の数が多いという訳でもなかった。
 一方のユーリはというと多少驚いてはいたようだが、それよりも彼は自嘲めいた笑みを浮かべていた。

「帝都を出て早々にとんでもないもんにあったな。オレ、なんか憑いてんのか?」

 何だか本当にそんな気がしてきた。独房にぶち込まれかと思えば、エリシアと共に脱出することになり、何の因果か親友を知る貴族の少女を助けることになるわ目まぐるしい一日である。
 逃げ遅れた人を残し、無情にも門が閉められようとしていた。ユーリが地面を蹴り、ラピードと共に走り出す。
 ラピードの鞭のような尾が門を閉めようとしていた騎士の体を打った。

「な、なんだ、おまえ! うわっ、うわっ! 止めろ!」

「エリィとエステルはそこで待……って、おいっ!」

 思わぬ乱入者に騎士は腰が抜け、思わず座り込む。ラピードのお陰で門は半分が閉まった辺りで止まった。
 ユーリが二人を振り返ったその時だ。エリシアとエステルがユーリを追い越した。
 そもそもユーリは自分がそう言われて、はいそうですかと待っていると思っているのだろうか。魔物の大群を前にしても不思議と恐怖は感じない。
 迷いはなかった。いや、迷うという選択肢自体、初めから存在しなかった。



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