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の満月が昇る時
腹が減っては……
「――舞い踊る風霊、刹那にて軌跡を描け。ウィンド・カッター」

 掲げた右手から生み出された一陣の風が立ち塞がる魔物を切り裂いた。
 瞬間、エリシアは身を翻し、銃の引き金を引く。白銀の銃口から打ち出された光が、今正に牙剥かんとしていた魔物の体を焼いた。

「だぁっー! うざい!」

 戦闘ももう何度目になるだろう。数えるのも面倒になって来た。半ばやけくそ気味で銃を乱射しながら悪態を付く。

「そうぼやくなって。これ終わったら休憩にしようぜ。三散華!」

 振り上げたユーリの拳が魔物の顔面を強打する。襲い掛かってくる魔物を退けた三人と一匹は見渡しが利く所に座り、ようやく一息ついた。
 ぐぅ、とエステルのお腹が控えに自己主張する。
 ザーフィアスを出てから戦闘の連続ではそれも仕方ない。それが自分のお腹の音だと気付いたエステルは俯き、顔を真っ赤にして謝った。

「す、すみません」

「はい、ユーリ。私もお腹空いた」

 エリシアも一人で世界を旅する以上、グミや携帯食料、保存が利く缶詰めに水は持参している。
 だが全て一人分だし、何より携帯食料は美味しくない。

「あのなあ。オレに言ったって飯は出て来ないっての……おっ」

 荷物を整理していたユーリが声を上げた。
 帝都を出る時に皆から渡されたものだが、地図にグミなど旅に必要な物が一式揃っている。用意周到さにユーリは思わず舌を巻いた。
 それに加え、食べ物らしき物まで入っている。試しに容器を開けて見ると綺麗にサンドイッチが並べられていた。卵やハムにキュウリが挟んだものなどゆうに四人分はあるだろう。

「美味しそう」

「わんっ!」

「じゃ、頂くか」

 元気よく声を上げる辺り、ラピードもお腹が空いていたのかもしれない。幸い玉葱は入っていないようで、これなら彼も食べられるだろう。
 腹が減っては戦は出来ぬとよく言ったものだ。慣れない旅では体力も気力も消耗する。
 貴族のエステルも居ることであるし、適当に休憩しつつ進むのが一番だろう。三人と一匹は、作ってくれたであろう人にお礼を言ってサンドイッチを頂いたのだった。



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