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の満月が昇る時
前途多難
 帝都を出た三人の前には、雲一つない鮮やかな青空が広がり、なだらかな平原は緩やかな曲線を描いている。
 城の中では決して見ることの出来ない景色に、エステルは緑の瞳を輝かせた。
 城での日々は少しの自由もない窮屈な生活だった。エステルの立場を考えれば、それは仕方のないことだろう。それでも読書の時間だけは別だった。本を読んでいる僅かな時だけ『 』という立場から解放されたから。

「凄く空が青いですね。私、外の世界に憧れていたんです。いつも本の中でしか旅が出来なかったから」

「旅は今まで見えて無かったものが見えてくるから、私は好き。……貴族も色々と大変なのね」

 エリシアは騎士と同じく、貴族には良い印象を抱いていなかったが、彼等には彼等の苦労があるのだろう。こうしてエステルと出会わなければそんな事、思いもしなかった。
 久しぶりの“外”にエリシアは猫のように目を細め、うんと背伸びをした。

「えっ、そ、そんなことないですよ?」

「何で最後疑問形なんだよ」

 鋭いツッコミが入る。このエステルという少女は会話していて、微妙に変なところがある。それは今のような疑問形な話し方であったり、とんちんかんな言動であったりとだ。
 とその時、今まで大人しくしていたラピードが牙を剥き、唸り声を上げた。

「じゃ、ちゃっちゃっと片付けちゃいましょ」

 エリシアは銃を抜き、ユーリが鞘から剣を抜く。エステルはやや緊張しながらサーベルを構えた。ラピードも背負っていた鞘から小振りの太刀を抜き、臨戦体勢に入る。
 現れたのは栗鼠を大きくしたような魔物。目がくりくりしていて見た目は可愛いが、魔物は魔物。侮ってはならない。
 結界魔導器の加護が及ばぬ外の世界には、こういった魔物が徘徊しているのだ。

「よっと」

 ユーリは器用に剣をジャグリングさせて切り付ける。左腕に付けている武醒魔導器が淡く輝いた。

「蒼破刃!」

 剣から放たれた青い衝撃破が魔物の体を穿つ。
 ラピードもユーリに負けてはいない。素早い動きで敵を翻弄し、鋭い体当たりをお見舞いした。

「ノクターナルライト!」

「これで終わりです! スターストローク!」

 エリシアの銃から生み出された白い光と、エステルが振り上げたサーベルから放たれた衝撃破が一つとなり、残った魔物を薙ぎ払った。
 エリシアがエステルに向けて手を上げると、彼女は人差し指でちょんとエリシアの手の平に触った。

「あははは……」

「前途多難、だな」

 またもやエリシアとユーリが呆れを通り越して苦笑したのは言うまでもない。
 ラピードですらこりゃ駄目だと前足で頭を掻く。当のエステルは何か間違いましたかと不思議そうに二人を見つめていた。



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