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の満月が昇る時
不条理な世の中
「おまえらとはここでお別れだ」

「ラゴウってわるい人をやっつけに行くんだね」

 ユーリの視線の先にはラピードの傍に立つ小さな男の子、ポリーと頭に海賊がかぶるような帽子を乗せたパティ。するとポリーは頷き、逆にラゴウを倒しに行くのかと問うた。
 にっと笑うとポリーの頭を乱暴に撫でる。くすぐったそうにはしているが、嫌ではないらしい。

「ああ。急いでんだ」

「うん。だいじょうぶ。ひとりで帰れるよ」

「いい子だ。お前も危ないことに首突っ込むんじゃねえぞ」

 流石は男の子。たくましいものだ。ポリーが無事だということを早く両親に見せ、二人を安心させてあげなければならないだろう。
 ユーリはもう一度だけポリーの頭を撫でると、今度はパティに向き直った。行動を共にしたのは短い間でしかなかったが、この少女に釘を刺しても無駄だろうとは薄々感じていた。
 だが何も言わないよりはマシだろう。……恐らくは。

「分かっているのじゃ」

「気をつけてね」

 パティはうんうんと頷くとポリーと共に、街の方へと駆け出して行く。その後ろ姿に一抹の不安が拭えないのは、ユーリとエリシアだけではないはず。

「あれ、絶対分かってないわよ」

「多分、ね……」

 そもそもそんなに物分かりがいいなら、彼女は一人でラゴウの屋敷に侵入しないだろう。
 明らかに期待していないと言ったように片目をつむるリタに同意するしかなかった。

「エステル、どうしたの?」

 先程から全く会話に加わらないエステルを見て、カロルが心配そうに声をかけた。顔色が悪いのは気のせいではないだろう。
 エステルはすみません、と言った後、ゆっくりと語り出す。

「わたし、まだ信じられないんです。執政官があんな酷いことをしていたなんて……」

「よくあることだよ」

 帝国はこの世界唯一の国。光があればまた影が生まれるように、帝国の影の部分を垣間見ることは何も珍しいことではない。カロルだってエリシアだって、何度もそんな場面を目にしている。
 世界は弱いものに辛く、強いものに優しい。それが今のテルカ・リュミレースの摂理だ。

「帝国がってんなら、この旅の中でも何度か見てきたろ?」

「……ハルルではフレン以外の騎士は助けてもくれなかった」

 結界が消失し、魔物の脅威に怯える住民たちに、フレンと彼の部下以外は、手を差し延べさえしなかった。民間人を守ることが騎士のつとめではないのか。
 そして魔導器を管理という名目で独占する帝国。

「でも……いいえ、今は執政官を追いましょう」

 言いかけて、エステルは止めた。考えることは後でも出来る。
 しかし今、フレンのためにも執政官を逃がすわけには行かない。悩みながらも彼女はそれを分かっていた。葛藤は後でいい。今はラゴウを追わなければ始まらない。

「その意気だ」

「取っ捕まえてフレンの前に出してあげましょ」

 ユーリが頷き、エリシアがエステルに向けて悪戯っ子のように笑う。エステルも同じように笑い返すと、皆の後を追って走り出す。



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あきゅろす。
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