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の満月が昇る時
ラゴウ逃亡
「くっ、これでは!」

 悔しげにフレンが叫ぶ。このまま炎が燃え広がれば証拠である魔導器を調べることが出来なくなる。魔導器はラゴウが天候を操る魔導器を所有していた事を裏付ける貴重なものだ。
 混乱する騎士たちを尻目に、ラゴウは部下の傭兵たちに命じる。船の用意を、と。混乱に乗じて逃げるつもりだ。証拠を手に入れるためにもフレンはラゴウを追うことが出来ない。ここで追ってしまえば全てが水の泡になる。
 ユーリはそんな幼なじみの心情を十分承知していたので、仲間たちに聞こえるように叫ぶ。

「ちっ、逃がすかっ!! 追うぞ」


 燃え盛る部屋を抜け出し、エリシアたちは屋敷に隣接する庭園にいた。空は相変わらずの曇り空であったが、長い間港を濡らしていた雨はもう上がっている。
 そこにはもう、ラゴウと傭兵たちの姿はなかった。船の準備をと口にしていたことから、船着き場に向かったのだろう。

「ったく、なんなのよ! あの魔物に乗ってんの!」

 それまで抑えていた怒りを遂に抑えきれなくなり、リタは叫んだ。
 理由は至極簡単である。調べていた魔導器をあんな形で破壊されたのだから。ただでさえ、魔導器を愛するリタにしてみれば許せないことだというのに。

「あれが竜使いだよ」

「竜使いね……エフミドの丘といい、どうして魔導器を破壊して回ってるのか疑問じゃない?」

 ノール港とエフミド丘。破壊された二つの魔導器に類似、あるいは一致するものとは何なのか。
 前者は天候を制御するもので、後者は結界魔導器である。共通するのは魔導器ということだけ。

「そんな理由どうでもいいわ! それに何が竜使いよ! あんなの、バカドラで十分よ! あたしの魔導器を壊して!」

「バカドラって……。それにリタの魔導器じゃないし」

 冷静なカロルのつっこみも、頭上から降って来たリタのきつい一撃に阻まれる。
 訂正、リタは随分ご立腹のようだ。こうなったら誰にも止められない。よって、嵐が過ぎるのを待つしかないように、彼女の怒りがおさまる時を待つしかないのだろう。諦めに似た達観が必要なのだ。

(それにしてもレイヴンはどこに行ったんだろ?)

 屋敷にはレイヴンの姿はなかった。そもそも何故、屋敷に入ろうとしていたのかも聞いていない。天を射る矢が関係しているのか、それとも……。
 分からない。レイヴンの行動は、エリシアにも全く読めなかった。



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