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の満月が昇る時
竜と竜使い
「執政官、何事かは存じませんが、事態の対処に協力致します」

 エステルがフレン、と彼の名を呼ぶ。この友人を侮ってはならない。自分たちが“騒ぎ”を起こして間もないというのに、フレンは部下を引き連れてやって来た。

(ったく、ちょっとは遅れて来いよな、フレン)

 無駄だと分かっていてもユーリは苦笑するしかない。ほらみろ、と。

「ちっ、仕事熱心な騎士ですね……」

 ラゴウが忌ま忌ましいといった風に舌打ちした瞬間だった。天井近くに設置されている硝子張りの窓が甲高い音を立てて砕け散る。
 割れた窓から現れた影は見たこともない異形だった。体の両側から広がるのは固い鱗に包まれた青い翼。長い尾に鋭い瞳は薄い青色をしている。

 鳥でもなく、爬虫類でもない。数多くいる魔物の中でも滅多に目にすることのないもの、それは“竜”。
しかも竜の背に、何者かが跨がっているではないか。
 顔を含めた全身を覆う白い鎧を身につけているため、年齢も性別すらも分からない。ただ、身の丈もある業物の槍を携えている。

「うわぁ……!! あ、あれって、竜使い!?」

 竜使いの姿を認めたフレンは部下たちを即座に散開させる。ウィチルが援護するようにファイアボールを放つが、燃え盛る火の球もフレンとソディアの剣も当たらない。
 竜が空中を泳ぐように優雅に魔導器に近付くと、竜使いは一瞬で中央に象眼されていた魔核を薙いだ。
 ばちばちと奇妙な音を立て、魔導器から黒煙が上がる。ここまで壊されてしまえば誰も修復出来ない。あまりに突然の出来事に呆然とするラゴウとリタ。
 だが魔導器を愛するリタの方はたまったものではない。それが例えリタの魔導器でなくとも。

「ちょっと!! 何してくれてんのよ! 魔導器を壊すなんて!」

「人が魔物に……本当だったんだ」

 しかし、リタの叫びも竜使いには届かない。魔導器を破壊したことで、もう用は済んだとばかりに飛び去ろうとする。
 エリシアは空中の竜と竜使いを見上げた。エフミドの丘でカロルが聞いた話は本当だったのだ。あれが竜使い。でも何のために魔導器を壊すのだろう。

「待て、こら!」

 リタが再度ファイアボールを放つが、これも竜には届かない。フレンとソディアも後を追おうと走り出したが、竜が放った灼熱の吐息に阻まれる。
 竜の口から放たれた息吹は、容赦なく室内を燃やして行く。このままでは部屋全体に炎が広がるのも時間の問題だった。



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あきゅろす。
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