[携帯モード] [URL送信]

の満月が昇る時
誇れるような生き方
「う、海を荒らしまわった大悪党だよ」

 カロルがややつっかえながら、アイフリードがどんな人物であったかを語る。
 アイフリードの名は、ギルドの人間なら知らぬ者はいない。それくらいアイフリードと、アイフリードが率いたギルドは有名だった。正しくは、アイフリード率いるギルドが起こしたある事件から、ギルドの人間でなくとも有名である。

「海賊ギルド、海精(セイレーン)の牙を率いた首領。天を射る矢(アルトスク)とも並び称されていたんだけど……」

「アイフリード……移民船を襲い、数百人という民間人を殺害した海賊として騎士団に追われている。その消息は不明だが、既に死んでいるのではと言われている、です」

 言い淀んだエリシアにユーリは首を傾げる。何か言いづらいことでもあるのだろうか。彼女に代わって答えたのはエステルだった。
 移民船を襲い、民間人を虐殺したとされるアイフリードが表舞台から姿を消して数年という時が流れた。
 本来ならギルドには干渉しないはずの騎士団に追われていたアイフリードは、生きてはいないというのがもっぱらの噂だ。

「ブラックホープ号事件って呼ばれてるんだけど、もうひどかったんだって」

「……ま、そう言われとるの」

 呟いたパティは前を向いたまま。一行からは彼女がどんな表情をしているか分からない。
 だがその声音は変わらぬものの、少しだけ悲しそうだった。少なくてもそう感じる。パティはもしかして、アイフリードの関係者なのだろうか。
 宝を探していると言うし、纏う服もどこか海賊を思わせる。悲しげな声も、彼女がアイフリードの関係者だからではないのだろうか。

「パティ?」

「なんでもないのじゃ」

 元気よく振り返った彼女に、先程の憂いはない。わざと元気に振る舞っているような感じがするのは、気のせいだろうか。何にしても、無理に聞く必要はないだろう。パティとて聞かれたくないに違いない。

「でも、あんたそんなもん手に入れて、どうすんのよ」

「どうする……? 決まってるのじゃ、大海賊の宝を手にして冒険家としての名を上げるのじゃ」

 リタの疑問はもっともである。海賊の宝を手にしてどうするのか。確かに大海賊の宝を手にしたとなれば当然、冒険家としての名を上げることは出来るだろう。それは、こんな少女が危険を冒してまで、手に入れなければならないものだろうか。事情があるのかもしれないが、それにしても危険過ぎる。雲を掴むような話だ。

「危ない目に遭っても、か?」

「それが冒険家という生き方なのじゃ」

 パティはユーリの問いに淀みなく答える。冒険家であれ騎士であれ、生き方というものは簡単に曲げられるものではない。まだ十三、四歳だというのに妙に達観している所もあった。
 パティは凄い。自分などよりずっと。誰かに誇れるような生き方なんて、出来るのだろうか。



[*前へ][次へ#]

6/75ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!