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の満月が昇る時
アイフリードの宝
「これで……!」

 エリシアの愛銃の銃口からほとばしる雷撃が、寸分の狂いもなく、剣を振り上げた傭兵を捕らえた。
 バチッ、と鈍い音がした瞬間、傭兵は冷たい床に崩れ落ちる。気絶させるにはこれが一番手っ取り早いのだ。

「こいつで……ラストだ!」

 ユーリが振り上げた剣から発生する衝撃波――既に旅の中で見慣れたものになりつつある蒼破刃である。蒼い衝撃波は、防御もままならぬ男を容赦なく壁へとたたき付けた。
 ユーリは襲いかかって来た傭兵全員が昏倒したことを確認して、剣を鞘に納める。

「急がないといけませんね」

「進む度に傭兵の数が増えてる事を考えると、この先に魔導器があるのはまず間違いないわね」

 やや焦ったように剣を納めるエステルに、確信を得たリタは組んでいた手を下ろした。
 しかし本来の目的では絶対に使われない、戦闘を繰り広げたお陰で、部屋の中は例えようのない有様だった。あえて言うなら、空き巣に入られたような感じか。
 高価な絵画には弾け飛んだ傭兵の剣が突き刺さっているし、部屋の隅に置かれた観用植物は、吹っ飛ばされた傭兵のお陰でめちゃくちゃである。

「こんな危険な連中のいる屋敷をよくひとりでウロウロしてたな」

「危険を冒してでも、手に入れる価値のあるお宝なのじゃ」

 仲良くおねんねしている男たちを見下ろし、ユーリは言った。
 門番たちを出し抜いたのは見事だったが、捕まったのでは元も子もない。そんな危険を冒してまで、パティが求める宝とは何なのだろう。

「それってどんな宝?」

「アイフリードが隠したお宝なのじゃ」

 興味津々と言った様子で尋ねたカロルにパティは何気なく答えた。アイフリードが隠した宝だと。
 “アイフリード”。その一言を聞いた瞬間、カロルが驚愕し、リタが微かに眉を吊り上げる。ユーリは相変わらずのポーカーフェイスで、エリシアは僅かに目を見開き、エステルはカロルと同様に驚いていた。

「有名人なのか?」

 場違いな質問を投げかけたのはなんと、ユーリである。
 さっきのあれはポーカーフェイスというより単に知らなかっただけらしい。それもある意味では仕方がないのだろう。彼はザーフィアスで暮らしていたのだから。博識なエステルは恐らく、本で知っていたに違いない。アイフリードの名はギルドに属する、或いは関係者なら知らない者はいなかった。

「ってユーリ、一人驚いてなかったのは、知らなかっただけ?」

「ん? ああ、さっぱりな」

 別の意味で驚く皆にユーリは飄々と笑った。やはり大物に違いない。



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