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の満月が昇る時
自称冒険者
「宝? こんなところに?」

「あの道楽腹黒ジジイのことだし、そういうのがめてても不思議じゃないけど……」

「宝って言うより税金でしょ。街の人たちからも随分絞り取ってるみたいだし」

 首を傾げるカロルに、あながち間違いではないと同意するリタ。
 しかし、今までの話の流れから行くと、溜め込んでいるのは宝というより税金ではないだろうか。この屋敷だけでなく、外の庭園にもかなりの金がかかっているのだろう。屋敷の内装も勿論、明らかに高価なキャビネット、シャンデリア。上げればきりがない。
 その全てが街の人々から巻き上げた税金が使われているのだ。怒りを通り越して呆れすら抱く。

「だろうな。ったく、無駄なものばっかだな」

 ユーリは近くにあった獅子の置物を蹴った。恐らくは大理石で出来ているのだろう。磨き上げられた鏡のような像はかなり重い。
 倒れて壊れました、ではザーフィアスの城の二の舞である。ただ、犯罪者になった時点で気にするだけ無駄であり、そもそもユーリが気にするはずがない。

「パティは何してる人?」

「冒険家なのじゃ」

 パティの一言に凍り付いたのは、カロルとエステルである。
 ユーリは相変わらずなにを考えているか分からないし、リタも動揺した様子はない。こんな年端もいかない少女が冒険者とは。嘘をついているとも思えないし、誤魔化している訳でもなさそうだ。

「と、ともかく、女の子ひとりでこんなところウロウロするのは危ないです」

「そうだね。ボクたちと一緒に行こう」

 コホン、と咳払いをして落ち着いてから、エステルは話の方向を逸らした。カロルもそれに便乗する。その点はエリシアも同じだ。
 流石にこのまま――天井からぶら下がったまま放置するのはかわいそうだと思う。捕らえれた彼女が危険な目に合わないという保証はない。

「この際、宝は諦めた方が賢明だと思うけど、どうする? どうしても天井からぶら下がったままがいいなら、無理強いはしないけど」

「人のこと言えた義理じゃねえがおまえ、やってること冒険家っていうより泥棒だぞ。ま、まだ宝探しするってんなら、オレも止めないけどな」

 不法侵入をした時点で、冒険者ではなく犯罪者だろう。しかもお目当ての宝を見つけたなら、当然持って行く気なのだから、やはり泥棒である。
 それでも宝を探したいなら、自分たちも止めない。パティを説得する余裕も猶予もないからだ。

「冒険家というのは、常に探究心を持ち、未知に分け入る精神を持つ者のことなのじゃ。だから泥棒に見えても、これは泥棒ではないのじゃ。……しかし、たぶん、このお屋敷にはもうお宝はないのじゃ」

 色々並べ立てているが、つまりは一緒に来たいということなのだろう。素直ではないというか、変な少女である。ただ、憎めないのは確かだ。

「それじゃ行くか」

「ちょっと待つのじゃ! うちを降ろすという肝心なことを忘れておる!」

「ほんの冗談だって」

「ユーリが言うと冗談に聞こえないから」

 部屋を出て行こうとするユーリに、パティは体を揺らして叫んだ。悪戯っ子のような笑みを浮かべるユーリを見ても、本気なのか冗談なのか分からない。そのままパティを放って置きそうな気もする。
 エリシアが苦笑しながら言うと、そうか?、と軽い声が返って来た。ユーリと旅をするようになって結構経つが、未だにふとした時の考えが読めない。
 レースのついた海賊帽に、大人用の紺の上着をワンピース代わりに着ているパティ。見た目は普通の少女なのだが、どこか変わっているというか喋り方がかなり年寄り臭い。



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あきゅろす。
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