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の満月が昇る時
奇妙な少女再び
 階段を上がった先は、いかにも貴族らしい豪奢な屋敷だった。敷かれた真紅の絨毯に、調度品の類は住民ならばとても手が出せない値段なのだろう。何にしても、部屋をじっくり見ている暇などなかった。
 部屋数が多過ぎて、ラゴウがどこに逃げ込んだのか分からないのである。
 恐らく天候を操る魔導器が置かれた部屋だろうが、ちんたらしている暇なんて皆無だ。証拠を隠滅されれば元もこもない。

「ああ、もう! 部屋が多過ぎて分かんないよ!」

 真っ先に耐え切れなくなったカロルが叫ぶ。このまま迷い続けるのは出来れば遠慮したい。フレンたちが来てしまうではないか。こうなったら、もう頼れる人物は一人しかいなかった。
 エリシアは勢いよく、考え事をしていたリタの方を振り向く。

「ねえ、リタ、魔導器が置いてある部屋の見当付かない?」

「魔導器の力を十分に発揮するには、なるべく外に近い方がいいから。踏み込まれることを考えても奥の方じゃない?」

「じゃあ、こっちだね!」

 一つ一つ部屋を探す暇はない。研究者である彼女なら、魔導器が置かれた場所も見当がついているかもしれない。そう思ったのだ。そして予想通り、暫しの沈黙の後、リタが口を開く。
 推測を聞いたカロルが勢いよく扉を開ける。次の瞬間、目の前に飛び込んで来た光景に一向は言葉を失った。何故なら部屋の天井から伸びたロープに、寝具ごとぐるぐる巻きになった少女が吊り上げられていたからだ。

「いーい眺めなのじゃ……」

 少女は吊り上がったまま、体を揺らして脳天気に言った。遊んでいる訳ではない……と思う。
 彼女はあれだ。三つ編みにした金髪に丸い碧眼。レースの付いた海賊帽を被っている。屋敷の前で会った奇妙な少女だ。まんまと傭兵たちを撒いたのかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

「そこで何してんだ?」

「見ての通り、高みの見物なのじゃ」

 呆れたようなユーリの声に、少女はえっへんと胸を張って答える。一行を目にしても驚くこともなく、またここにいる理由を尋ねる訳でもない。
 高みの見物だと彼女は言うが、体は未だぐるぐる巻きのまま。どう見ても高見の見物ではないだろう。

「ふーん、オレはてっきり捕まってるのかと思ったよ」

「あの……捕まってるんだと思うんですけど……」

 控えめに言葉を挟むエステル。彼女の正しい、と言うか分かりきった指摘にも少女は首を振って、そんなことないぞ、と反論した。
 少女が捕まっていないように見える人物がいれば病院に行ったほうがいい。これが捕まっている以外の何に見えるのだろう。新しい貴族の遊びだとでも言うのだろうか。

「その格好で言っても全然説得力ないって」

「お……? おまえたち、知ってるのじゃ。えーと、名前は……ジャックとメアリー?」

 エリシアも冗談半分に、尚も楽しそうにぶら下がる彼女に突っ込んでみる。ふとユーリと自分を見た少女は眉を潜め、頭を捻った。
 しかし次に少女から出た名は全くの別人。あまりに適当すぎるジャックとメアリー発言に、思わずずっこけそうになったのは何も、エリシアだけではないはずだ。



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あきゅろす。
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