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の満月が昇る時
友への誓い
 幾度夜が明け、日が暮れ、時が過ぎたか。遥か悠久の時に流れ、世界が忘れた友の名をこの瞬間(とき)、この場所で万の想いと共に叫ぼう。
 果てなき運命(さだめ)を繰り返す、愚かで愛しい世界の為に。
 友よ、お前の魂は今何処に在る? 世界と共にあるのか、それとも泡沫と消えたか。
 その想い、私が代わりに引き継ごう。その願い、私が代わりに叶えよう。光と消えた友の為に。


 なだらかな曲線を描く草原を、一人の男が歩いていた。若い、恐らくは二十代であろう男だ。鮮やかなルビーを思わせる瞳に、光を反射する艶やかなシルバーブロンドがふわりと風に揺れた。
 身に纏う服は鎧ではなく、血の色をした長衣。荷物という荷物は持っておらず、一振りの剣を携えている。複雑な模様が彫り込まれた刃は一種の芸術品と言ってもいい。

 果てしなく広がる青々とした草原にそよ風に草花。自然の雄大さを感じさせる風景がそこにはあった。周囲には魔物の姿もない。
 もしここに、エリシアが居れば彼を見て驚いていたかもしれない。エフミドの丘で数度だけ言葉を交わした男。デュークである。

「……祈ってよかった、か」

 デュークは歩みは止めずに突然、ぽつりと呟いた。
 思い出すのは友の墓前で会った少女。何故彼女は、見ず知らずの自分と話し、友の墓に祈りを捧げる気になったのか。デュークには理解出来ない。
 もし、もしも人間が皆あの少女のようだったのなら友は死なずに済んだのだろうか。過ぎた事を言っても仕方がないのは分かる。

 どうしても考えてしまうのだ。
 だがデュークには友に代わってやらなければならないことがある。
 過ぎたる薬が毒となるように、増えすぎたエアルは世界にとって毒となる。友の名に誓った。そのために彼は世界を回るのだ。

「……エルシフル」

 デュークは遂に立ち止まり、今は亡き友の名を口にする。するとどうした事だろう。デュークに応えるように優く、柔らかな風が吹き、彼の長い髪を揺らした。



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