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の満月が昇る時
カプワ・ノール
 結局、デュークと会ったことを誰にも言わなかった。そもそも何と言えばいいだろう。彼の姿はすぐ消えていたし、それほど話をした訳ではない。
 皆と合流した後、テントを張って一泊し、ノール港へと続く街道を歩いている。すると今まで晴れていたと言うのにノール港に近付けにつれ、見上げる空は今にも泣きそうだ。ノール港に到着した時に、は既に冷たい雨が降り出していた。

「……なんか急に天気が変わったな」

「びしょびしょになる前に宿を探そうよ」

 カロルは濡れないように頭に手を乗せるが、大粒の雨ではそれも無駄に等しい。雨で服が張り付くのは嫌だが、少しでも濡れた以上、今から急いで宿屋に行っても同じだ。カロルに続き、宿屋に足を向けたユーリはエステルがじっと街を見つめていることに気付いた。

「エステル、どうした?」

「あ、その、港町というのはもっと活気のある場所だと思っていました……」

 ユーリもエステルが見ていた街の中心街に視線を向けた。
 ノール港はイリキア大陸の言わば流通の拠点である街だ。資源の豊富な海に囲まれ、漁業も栄えており、当然人通りも多いはずである。
 だが今、目の前に広がっている光景はとても大陸の流通拠点とは思えない。しんと静まり返っている。この雨のせいもあるが、明らかに露店の数も少ないし、何より活気がないのだ。

「確かに、想像してたのと全然違うな……」

「それは仕方ないと言えば仕方ないんじゃない?」

 エリシアも同じように街中を見回した。自分も変わってしまってから、ノール港を訪れた事はなかったが、旅をしていれば色々と噂話は入って来る。
 カロルも小耳に挟んだことがあったのだろう。何とも言えない顔で同意する。

「そうだね。ノール港は色々と厄介だから」

「どういうことです?」

「ノール港はね、帝国の圧力が……」

「金の用意が出来ない時は、おまえらのガキがどうなるかよく分かっているよな?」

 カロルが答えようとした瞬間だった。明らかに柄の悪い大声が聞こえて来たのは。
 一行がその声につられるように目を向けると、見るからに高そうだと分かる服を来た役人らしき人物と、帯剣したその護衛、そして地面にひざまずき、何度も頭を下げる男女の姿があった。
 二人は夫婦なのだろうか。服が泥水で汚れるのにも構わず、一心不乱に頭を下げ続けている。



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あきゅろす。
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