金の満月が昇る時
デューク
「何故だ?」
「こうやって来てくれる人がいたから」
場所も場所だから、誰も来ないのかと思っていた。この場所に葬られたのはやはり、それなりの理由があったからだろう。それはエリシアが窺い知ることではないが、友人が訪れてくれるのはまだ幸せではないか。
「本当におかしな娘だな」
「娘娘って、私にはちゃんとエリシアって名前があるの」
おかしな、と言われるほど、自分が変わっているとは思っていない。それより男の方が随分と変わっているのではないか。
彼が纏う雰囲気は浮世離れしたと言っても過言ではなかった。見た所、武器らしい武器は薄紫をした刀身の一振りの剣のみ。美しい細工が施された剣は、どう見ても実用的ではない。
「そうか……」
「で、貴方は?」
両手を腰に当て、男を見上げれば意味が分からなかったのか、きょとんとしている。
会話が成立してない気がしないでもないが、あえて気にしないでおこう。
「私が名乗ったんだから貴方も教えてよ。分からなかったら貴方としか呼べないじゃない」
「……デューク」
「そっか、デュークね。良い名前」
男はただ一言、デュークと言った。主語がなく、あまりに唐突だったこともあり、それが彼の名前だと気付くまで数秒。
エリシアはデュークに背を向けて、丘に佇む墓標を見つめた。この墓に眠る人物はどんな人なのだろう。デュークの友達なら、ユーリとフレンのように正反対な性格をしていたのだろうか。
「……もし人がお前のような者ばかりなら……フルも……」
「え?」
振り向いた時にはもう、デュークの姿はなかった。つい数秒前まで彼がいたと言う痕跡は、どこにも残っていない。丘には穏やかな風が吹いているだけだ。
足はあったから幽霊ではない……と思う、思いたい。無意識に首を振った瞬間、先に行ったはずのカロルの姿。心配して戻って来てくれたのだろうか。
「おーい、エリィ! 何してんのー!!」
「ごめん! 直ぐ行くー!」
エリシアは叫びながら、もう一度だけ墓標を見る。デュークの友人の墓標は当たり前だが、何も語ることはなく、変わらぬまま丘の上にあった。
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