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の満月が昇る時
丘に眠る者は
「なんだろ、これ? ごめん、皆、先に行ってて。魔物が出ても一人で大丈夫だから」

「そうですか? 本当に大丈夫です?」

 エステルが心配そうに首を傾ける。嘘ではない。エフミドの丘には来たことがあるし、そもそもザーフィアスに来る前は一人で旅をして来たのである。そうそう魔物に遅れは取らないと自負している。

「大丈夫って言ってんなら心配ないだろ。エリィ、直ぐに追いついて来いよ。ほら、行くぞ」

「ありがと、ユーリ」

 ユーリはそう言うと尚も心配するエステルと皆を連れて坂を下って行った。この石はきっと、墓標の代わりなのだろう。では土の下に眠っているのは誰なのか。石の前にしゃがみ込むと目を閉じ、祈りを捧げた。別に神を信じている訳ではないが、死者には祈りを捧げるべきだと思うからだ。

「……何をしている?」

「何って祈ってるの」

 目を閉じたエリシアの耳に何者かの声が届いたのは、それから直ぐのことだ。
 祈ってるの、と答え、思わず背後を振り返った。彼女の真後ろに立っているのは一人の男。一見した所、外見はユーリより少し上だろうか。
 磨き上げられた紅玉を思わせる瞳に、緩く波打つ長い銀色の髪は、太陽の光を反射して美しく煌めいている。血のように赤い長衣を纏った男は、ここからでも分かる長い睫毛に繊細な顔立ちをしていた。

「……ど、どちら様?」

 顔を引き攣らせて尋ねても、彼の表情は変わることはなかった。
 一体彼は何者なのか。集中していなかったとは言え、全く気配を感じなかったのだ。ただ者ではないことくらい分かる。この静けさはまるで、戦う前の父を彷彿させた。

「何故祈る? 誰が眠っているのかも知らないだろうに」

「確かに知らない。でも誰か分からなくちゃ祈っちゃいけないの? 貴方こそ、この墓の人の知り合い?」

 立ち上がり、男を正面から見つめる。身長のお陰で見上げる形になるのだが。
 するとどうしたのかそれまで一切表情を動かすことのなかった彼が僅かに笑った。

「面白い娘だな。この墓に眠っているのは私と共に戦った友だ」

「そっ、じゃあ祈って良かった」

 笑ったと思ったのは一瞬で、男は直ぐに元の無表情に戻っている。会ったこともない人なのに、話していても不思議と変な感じはしなかった。
 祈って良かった、そう言えば男は不思議そうな顔をする。彼の赤い瞳からは、本当に意味が分からないらしい事が伝わって来た。別に変なこと言っていないはずなのだが。



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