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の満月が昇る時
自分の世界
「そうだな……オレの世界も狭かったんだな」

「ユーリでもそう思うんだね。でも私は狭くてもいいと思うの。自分の世界は私とみんな。それが“私の世界”だから。狭くたってユーリやエステル、リタにカロル、みんなの世界を合わせたら狭くなんてないよ」

 ユーリは感慨深げに海を見つめる。彼の世界はザーフィアス、その中の下町だった。海を見て思い知らされたのだ。どれだけ自分が見ていた“世界”がちっぽけであったかと。
 エリシアから見たユーリはいつも堂々としていて、自分の世界が狭いと言うのは意外だった。
 でも狭くたって良いと思うのだ。自分とって“世界”は私とみんな、だから。一人一人の世界は小さくても、合わせれば大きくなると思っている。

「……そうか、そうだな」

 ユーリは目を閉じ、小さく笑った。そうか、そんな考えもあるのかと。彼女の発想は自分にはないものだ。屈託のない笑顔で言う彼女が少しだけ羨ましくて眩しかった。

「あんたにしては珍しく素直な感想ね」

「リタも、海初めてなんでしょ?」

 殆どアスピオから出歩かない彼女も海は初めてらしい。その証拠に海を見た時、エステルほどではないにせよ、緑の瞳を輝かせていたから。

「まあ、そうだけど」

「そっかぁ……研究ばかりの淋しい人生を送ってきたんだね」

 カロルの余計な一言にぴき、とリタの顔が引き攣った。この少年も、余計な事さえ言わなければもっと頼りになるのだろう。わざと言っているのだろうが、流石に相手は選んだ方がいい。この後、どうなるかは大体想像出来た。
 ちなみにエリシアの中での頼りになる人はユーリ、次いでリタである。知識面で言えばリタに続いてエステルなのだが。

「あんたに同情されると死にたくなるんだけど」

「でもカロルも意中の人にまだ振り向いて貰えないんでしょ?」

 ほんの悪戯心から言ってみればカロルはだ、誰がナンなんか、と慌てて否定する。エリシアは笑いを堪えたまま、不思議そうな顔を作った。

「あれ? 私、ナンとは一言も言ってないよ?」

「え、あの別に……エリィの馬鹿ぁ!!」

 海が見える丘に少年の叫びがこだまする。少しの悪戯心から言ってみたのだが、カロルは思った以上にダメージを受けたらしい。げんなりしているではないか。よほど、ナンが気になっているのか、それとも別の何かなのか。



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