金の満月が昇る時
獅子の首領
振り上げられた銀色の裸身が綺麗に魔物の身体を両断する。剣を持つ男は、息を付く暇もなく返す剣で振り向き様に斬り付けた。
体液を撒き散らす魔物は、断末魔の悲鳴すら上げられず崩れ落ちる。彼は二体が絶命したことを確認すると剣を軽く振って鞘に納める。
「首領!」
そう呼ばれた人物は、三十代半ばほどの長身の男だった。戦士にしてはやや長めの淡い金色の髪に灰色の瞳。体つきはしっかりしているものの、大柄ではない。むしろ細身であり、すらりとしたシルエットだ。
整った顔立ちは剣士と言うより城の貴族のよう。実際目にしなければ、誰も彼が鮮やかな手並みで魔物を倒したとは思わないだろう。
細工が入ったシンプルなデザインの篭手をつけ、裾の長い、まるで騎士が纏う装束を身に付けていた。
「どうした?」
「これを……」
やって来た男が差し出したのは折り畳まれた一枚の紙。
促されるようにして紙を広げるとそこには一人の少女らしき人間が描かれていた。らしきと言うのも書かれた絵があまりに下手過ぎて髪の長さでしか性別を判別出来ないからだ。
似顔絵の下には特徴と名前が書かれている。名前はエリシア・フランベル。年齢は十代後半。薄紅掛かった淡い金髪に金の瞳。賞金は3000ガルドと。
それを見た男は、思わずため息をついた。一人でザーフィアスに行かせたのがまずかったか。
しかし彼女とてもう一人前。何があったかは分からないが、手配書が回っていると言うことはまだ捕まってはいないのだろう。
「エリシアちゃん、大丈夫ですかね?」
「……心配ない。あれももう一人前だ」
口ではそう言ってもやはり父として心配で仕方がない。自分がいつ死んでも一人で生きて行けるように鍛えて来たつもりだが……。
しかし、早くに妻を亡くした男にとってはたった一人、残った愛娘なのだ。
「行くぞ」
「は、はい!」
ギルド、獅子の咆哮(レオンハルト)の首領――レオン・クレセントは心情とは裏腹に、手配書を元通りに畳んで懐に入れると緩やかな足取りで歩き出した。
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