金の満月が昇る時
世界は広い
信じられなかったのエリシアだけではなかった。ユーリとエステルも口を揃えて首を振る。そんな話、初めて聞きました、と。カロルは分かって貰えないもどかしさに歯を食いしばった。
「ボクだってそうだけど、見た人がたくさんいるんだよ。『竜使い』が出たって」
「竜使い……ねえ。まだまだ世界は広いな」
少なくても見間違いではないのだろう。人が竜に乗るなんてにわかに信じがたいが、事実は認めるしかない。だからこそ世界は面白い、ユーリはそう思う。
とその時、魔導器を調べていたはずのリタが金切り声を上げた。
「ちょっと放しなさいよ、何すんの!? この魔導器の術式は絶対、おかしい!」
「おかしくなんてありません。あなたの言ってることの方がおかしいんじゃ……あなたにだって知らない術式のひとつくらいありますよ!」
何事かとリタの方を見れば、魔導士が苦しそうにリタの腕を掴んでいたところだった。抑えつけている男の方が苦しそうだとは変な話だが、普段体を動かすことすらしない魔導士なら頷ける。
術式がおかしいとの発言に魔導士は心外だとばかりに言い返した。リタも負けてはいない。魔導士の腕を払い退けて、破壊された結界魔導器を指差す。
「こんな変な術式の使い方して、魔導器が可哀そうでしょ!」
リタのように魔導器の専門家ではないエリシアは、一見しただけではどの術式がおかしいのか分からない。
けれど、ただの魔導士とリタ、どちらを信じるかと言われれば、迷わずリタと答えるだろう。彼女の知識は本物だ。
「ちょっと、見ていないで捕まえるのを手伝ってください!」
魔導士の助けを求める声に、警備をしていた騎士が駆け付ける。このままだと非常にまずい展開になる気がした。
早くも最終手段かと銃を抜きかけた瞬間、カロルが声を限りに叫んだ。後から思う。せめてカロルが事前に相談してくれたら止めてあげたのに、と。
「火事だぁっ! 山火事だっ!」
「山火事? 音も匂いもしないが?」
「あーあ……確かに注意はリタから逸れたけどこれは駄目だわ」
だから言わんこっちゃない、とエリシアは思わず頭を抱えたくなった。つくならもっと、ましな嘘はなかったのかと問いただしたい気分である。
煙も上がってない上に、火事ではないのだから、焦げるような匂いなんてあるはずもない。
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