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の満月が昇る時
自分勝手な人達
「人の住んでないとこに結界とは贅沢な話だな」

 つられるようにユーリも空を見上げた。無論そこにはザーフィアスやハルルのような光輪はない。
 結界とは本来、人の住む街などに設置される。デイドン砦にすらなかった結界が丘にあるとは、何とも贅沢と言うか結界の無駄使いである。
 そうでなくとも箱庭の世界を出て、外を旅する人間など稀なのに。

「あんたの思い違いでしょ。結界の設置場所は、あたしも把握してるけど、知らないわよ」

 リタに限らずアスピオの魔導士は、結界魔導器が設置されている場所の殆どを把握している。
 魔導士たちは帝国直属の人間だから当たり前だが、リタはエフミドの丘に結界が設置されたなどと聞いたことがなかった。

「リタが知らないだけだよ。最近設置されたってナンが言ってたし」

「私が通った時もあったよ、結界。ところでナンって誰のこと?」

 エリシアが初めてエフミドの丘を訪れた時に小耳に挟んだ話でも、つい最近設置されたらしいと聞いた。カロルがつい口にしたナンという名前から推測するに少女なのだろう。ハルルの樹を見せたいと言っていた相手もその“ナン”なのか。
 何となく聞いただけなのにカロルは明らかに焦っている。そこまで慌てなくても良いと思うのだが。

「え……? え、えっと……ほ、ほら、ギルドの仲間だよ。ボ、ボク、その辺で、情報集めてくる!」

 言うなり、彼は脱兎のごとく駆けて行った。そんなに知られたくないのだろうか。かと思えばリタも、あたしもちょっと見て来ると言い残し、小走りで走り出す。
 彼女が目指す前方には白煙を上げる魔導器の残骸が見える。結界魔導器とおぼしき魔導器は、修復が不可能だと分かるくらい、無惨に破壊されていた。

「ったく、自分勝手な連中だな。迷子になっても知らねえぞ」

「全っ然纏まりないわね。ユーリが言えたことでもないんじゃない。ね、エステル」

「えっと、はい。そうですね」

 話を振られたエステルも苦笑しつつ同意する。自分勝手の代表みたいなユーリに言われては二人も可哀相だ。もっとも、彼の場合は自分勝手に見えても、いつも他人を思っての行動だとエリシアは知っている。

「あのなあ、エリィから見たオレってどんだけ極悪人なんだよ」

 エリシアの思いなど露知らず、ユーリは勘弁してくれと頭を抱えるのだった。



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あきゅろす。
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