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の満月が昇る時
器用な人
「いただきまーす!」

「ユーリに作って貰えばよかったかも。別に私が仕切らなくても良かったんだけど、つい……」

 エリシアはスプーンを口に運びながら横目でユーリを見る。下町で一人暮らしをしていたためか、彼は一通りの料理を作ることが出来るとか。元騎士で剣の腕は言わずもがな、面倒見のよい兄貴分で、料理まで上手いとなると非の付けどころがない。
 エステルはお嬢様なだけあって料理は全然だし、リタも好んでは作らないと聞いた。
 何も自分が作る必要はないのだが、癖というものは恐ろしい。思わず手と口が動いてしまったのだ。

「また今度な。ま、オレはエリィの料理美味いから好きだけど?」

「わたしも大好きです!」

「ボクも!」

「……悪くはないんじゃない?」

 好きだと言ってくれるユーリにエステルとカロルも同意する。リタも満足してくれたらしい。
 作り手であるエリシアからすれば、そう言って貰えるのは嬉しい限りだ。誰かに美味しいと言って貰えるだけで作りがいがあるし、伊達にクレセント家の台所を取り仕切って来た訳ではない。
 嬉しいと同時に少しだけ照れ臭くて、エリシアは不自然に話の方向を逸らした。

「そう言ってくれると嬉しいな。……一休みしたら出発しましょ。エフミドの丘は直ぐ近くだから」


 食事後、一休みした一行は街道に戻り、エフミドの丘を目指した。エリシアの言葉通り、暫くしない内になだらかな丘が見えて来る。
 だがエフミドの丘にはハルルの街と同じくあるものがなかった。カロルも“それ”に気付いたらしく、澄み渡る空を見上げて首を捻る。

「おかしいな……結界がなくなってる。ここ通ったときはあったんだけど……最近設置されたってナンが言ってたのに」

 そう、カロルが言うようにエフミドの丘には最近、結界魔導器(シルトブラスティア)が設置されたのだ。
 しかし頭上には空を彩ると同時に結界の存在を示す光輪はない。



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