君に届く歌 鉄拳制裁 アルとリオンは何だかんだ言って、仲が良いと思う。千年以上の付き合いなのだから、当たり前と言っては当たり前だが、とにかくルカはそう思ったのだ。 一年ぶりに再会したルカたちだったが、皆驚くほど変わらない。唯一、ミラの身長が伸びたくらいだろうか。 アティは相変わらずマイペースだし、リオンの節操なしも変わらない。 ゲイルとゼフィだって忙しなく世界中を飛び回っているし、エクレールは酒好きだ。 カウンター席に突っ伏していたリオンは、テーブルに顎を乗せたまま、ルカの右隣つまりは自分の隣に座るアルの名を呼んだ。 「なーなー、レイン。構ってー、リオン暇で死んじゃう」 リオンたちが居るのは、つい数刻前に再会を果たした酒場だった。昼間ということもあり、彼らとバーテンダー以外に人の姿はない。 ただ、様々な酒が入り交じった独特の香りはやはり酒場である。 「暇で死ぬ訳がないだろう。そんなに退屈が嫌なら、イクセルたちに着いて行け」 「多分、嫌な顔されると思うけどなあ。リオン兄は良くも悪くも引っ掻き回すからね」 ふう、と重いため息をつき、秀麗な顔を曇らせるアルにルカも苦笑する。旅の仲間であるイクセもルーアもここにはいない。 始竜としてまだ未熟なミラと(名目上は)保護者であるエクレールと共に街を見て回っていた。 ちなみにウィスタリアは酒場の空気が合わないと、イシュリアと散歩に出ている。 流石に大所帯で出歩く訳にも行かず、ルカたちが残ったのだ。 「誓って引っ掻き回しません!! レインもルカもオレのことなんだって思ってるわけ?」 「勿論、リオン兄」 「節操なし」 満面の笑みを浮かべるルカと冷たい表情で言うアル。節操なし。それはイクセの認識でもある。 リオンも自覚しているのか視線を逸らし、ひゅう、と口笛を吹いた。 「図星か」 「レインってばオレに厳しいんだもん。気に入ったものを愛でて何が悪いのー?」 ぶーぶーと悪態をつくリオンは子供のようだ。そんな微笑ましい? 彼を見てルカが笑う。 「オレは気に入ったものは愛でる主義なの! だからレイン〜」 直ぐ様立ち上がったリオンは隣に座るアルに抱きついた。それも両手を回してしっかりと。 美形二人が抱き合う光景はどこか夢のようだが、ルカは確かにアルの堪忍袋の緒が切れる音を聞いた。 アルは冷ややかな表情のまま、無言でリオンの胸ぐらを掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばした。 リオンの体が宙を舞う。 そのまま床に叩きつけられるかと思いきや、彼は空中で態勢を変えて危なげなく着地した。流石は竜である。 「危ないなあ、もう。レインってば何考えてんの?」 「それは私の台詞だ。冗談も大概にしろ。私は冗談は好かん」 「えっと、リオン兄、どんまい?」 「流石ルカ、オレを慰めてくれるのはお前だけだよな」 ワインレッドの瞳を潤ませたリオンは、両手を広げルカを抱き締めようとする。その様は誇り高き竜と言うより、大型の猫のよう。 だが、アルがそんな真似を許すはずはない。 「……お前は一度生まれ変わってこい」 アルの鉄拳が容赦なくリオンを捉える。綺麗に吹き飛ばされた彼は、びたんと音を立てると、大の字になって床に倒れた。 ぽけーっとしていたルカは恐る恐る振り返り、グラスを磨くマスターに謝る。 「あの、すみません……」 「お気になさらず。乱闘は日常茶飯事ですから。それより、何かお飲みになりますか?」 しかしマスターも慣れているのか、眉一つ動かさない。他の街と比べ、品のよい酒場であるが、冒険者が集まることには変わりない。 マスターにはこの程度は何てことないのだろう。リオンを一瞥し、振り返ったアルは真剣そのものといった口調でこう言った。 「そこの馬鹿に水をかけてくれ」 終わり 後書き 白蔵様よりリクエスト、ルカ+リオンがアルに抱きつく→鉄拳、で書かせて頂きましたが、どうでしたでしょうか? 何だかリオンが可哀想な気もしますが、自業自得ですね(笑) ちなみにあの後、リオンはマスターに水をぶっかけられてびしょ濡れになります(^-^) 何だかぐだぐだになった気がしないでもないですが、リクエストありがとうございました! [戻る] |