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君に届く歌
B
「いやー……ちょっと目にゴミがね。気にしないで」

「そう? 良かった」

 自分でも白々しいと思うが、他に考えつかなかった。苦笑して目を擦る。言い訳としては三十点。それは理解していたが、他の言い訳など思いつかない。
 ただ、青年はそんなリオンにも疑問を抱かなかったらしい。リリスは何か気付いたようだが、結局何も言わずにアーヴィンと仕事に戻る。それを横目で見ていたアルが静かに声を掛けた。紅蓮と。

 だが、反応はない。リオンはあらぬ方向を向いたまま。それが強がりであることは、アルも理解している。リオンとは随分長い付き合いなのだから。彼が意地を張っていることだって分かっていた。
 リオンは人に弱味を見せない。癖、なのだろうか。グラスを持つ彼の手は僅かに震えている。アルは仕方のない子供の呼ぶように“彼”の名を口にした。

「リオン」

「……レインがリオンって呼んだの初めてじゃない? 何だか嬉しいな」

「茶化すな」

 笑い声が聞こえたが、リオンは一向にアルの方を向かない。痺れを切らし、苛立ったように彼の肩を掴んでこちらを向かせる。
 アルは無言。リオンは降参とばかりに両手を上げ、泣きながら笑っていた。宝石のような瞳から、止めどなく流れ落ちる雫。涙は彼の白い頬を伝い、首筋を流れる。

「ホント、レインには敵わないよねぇ。何でだろ。ルージュが泣いてるのかな?」

 リオンの魂は懐かしいと叫んでいる。生まれ変わっても君を愛する。それは美しい誓いの言葉なのだろう。けれど、リオンはルージュではないし、アーヴィンもカインではない。それが答えだ。

 アルは何も言わずにリオンの髪に触れた。幼子を宥めるように優しく。普段、ルカ以外には淡白な彼だが、決して冷たい訳ではない。リオンにしてみれば、何を言わずにいてくれる方が有難いのだ。慰めて欲しくない。ただこの悲しみを昇華したいだけ。

「……今度こそ、願うよ。彼が愛する人と添い遂げられるように」

「……そうだな」

 辛い愛に身を焦がすのではなく。今度こそ、ヴァーミリオン=フレイア=フィーニクスは願おう。彼が幸せであるように。
 この魂はもうルージュではないが、彼が愛する人と共に歩むことが出来るよう、この世界を離れた神に祈りたかった。



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