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君に届く歌
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 初めて彼らを見た時、リオンは呼吸を忘れた。それほどまでに衝撃的だったのだ。
 久しぶりにアルストロメリアを訪れた一行だったが、夜になり、リオンは冒険者組合、正確には酒場に足を運ぶ。気乗りしないアルを連れて。イクセにはルカと稽古をするから、と断られたし、アティは既に夢の中。ルーアはゼフィとチェスの真っ最中。勿論、アルも乗り気ではなさそうだったが、半ば強制的に、だ。

 冷たいように見えるが、彼はリオンのお願いを聞いてくれる。一応、心配してくれているのだろう。口には決して出さないが。

「……離れろ。鬱陶しい」

「えー、酷い、レイン。そんなに冷たくあしらわれたら傷ついちゃう。所詮、オレとのことは遊びだったのね」

「誤解を招く言い方をするな、紅蓮」

 アルの腕にしがみつくリオンに、彼は鬱陶しそうに金色の目を細めている。美しさの方向は違うものの、二人とも息を呑むほど美しい。アルがどこまでも清らかで、人を寄せ付けない研ぎ澄まされた刃のような美しさなら、リオンは人を惹きつけて止まない大輪の花。青年ながら艶やかで美しい。

 遊びだったのね、と唇を尖らせるリオンは完全に面白がっている。賑わう大通りを抜けて、冒険者組合の扉を開けた。昼間はどちらかと言うと大衆向けの酒場のようだが、夜は洒落たバーと言った所だろう。まだ宵の口であるせいか、混んでいる訳ではないが、結構な人である。
 テーブル席は殆ど埋まっているか、相席しかない。一応、無理やり連れてきたアルを気遣って、空いていたカウンター席に腰を下ろした。

「お姉さーん、カルヴァドス二つお願い」

 カルヴァドスは林檎を原料とする蒸留酒である。ただ100%林檎を使っている訳ではなく、洋ナシも使用するらしい。勿論、リオンもアルもカルヴァドス程度では酔わないが、酒場に来て酒を飲まずに帰れるものか。
 カウンターにいた女性に声をかける。炎を思わせる鮮烈な赤い髪をした若い女性だ。背を向けているため、リオンから顔は見えない。

「カルヴァドスね。ちょっと待っててくれるかしら。あら? アル君。こんばんは。今日は珍しくルカ君じゃない別の人を連れてるのね。……これまたすっごい美形」

「ああ。良い夜だな」

「……初めまして、お姉さん。リオンって呼んでね」

 振り向いた女性がアルを見て驚く。どうやら知り合いらしい。どうにか笑って答えたもの、内心、少し驚いていた。豊かに波打つ炎を思わせる髪に抜群のプロポーション。彼女はリオンの先代の紅蓮の君――ルージュに似ていたからだ。
 瓜二つ、ではないが、やはり似ている。意思の強そうな瞳も纏う雰囲気も。途端に懐かしさがこみ上げてくる。ルージュは自分の中にいるのに。



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