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君に届く歌
大好きだよ
「ねえ、アルはどうして、竜の姿で俺と一緒にいてくれたの?」

 それは素朴な疑問。リオンやアティたちに会ってルカが思っていたことだ。
 アルは今こそ小さな竜の姿をしているが、人の姿を取ることが出来る。彼と出会って既に十年以上。何故、人の姿ではなく、竜の姿を選んだのか。
 ルカは左肩に乗るアルに尋ねた。

『人の姿を取れば外見が変わらないことがわかってしまう。しかしだからと言って、お前の周りに生きる人々の記憶を操る真似は出来ない。無論、したくもないがな』

 確かに人の姿を取れば、大丈夫だと言って、母を亡くした幼いルカを慰めることは出来たかもしれない。寂しさを紛らわせることだって。
 人の姿を取れば、外見が変わらないことに気づかれてしまう。だからといって記憶の操作はしたくないし、いくら人の姿を模そうとも、アルは竜にしかなれないのだ。
 だから竜として彼のそばにいた。十年もそれを続けていたのは、単に切り出せなかったから。

 怖くなったのだ。アルはルカと向き合って生きて来たつもりだった。それでも彼を偽っていたことは紛れも無い事実だから。例え、それがルカを慮ってのことだとしても。
 ルカを守りたかった。彼を傷つける全てから。
 アルとて理解しているのだ。ルカは守られるだけの存在ではない。むしろ彼は自分たちを守ろうとしてくれる。

「そっか……。でも俺、人の姿をしたアルも好きだよ」

『ルカ……』

「ううん。どんな姿でも大好き」

 俯いたアルの頭をルカが撫でる。
 家族として、親友として、共にある存在として。雄々しくも美しい竜の姿も優美なる青年の姿も、どちらも彼である。
 否、どんな姿だってアルへの思いは変わらない。ルカはアルが大好きだ。どんな姿をしていても。
 ルカは微笑みながら、肩に乗るアルの首を撫でる。

『全く、お前はもう少し甘えた方がいい』

 幼くして母を亡くし、父も故郷には近づかなくなった。誰かに甘えるということ自体、ルカは殆どしなかった。やはり遠慮していたのだろう。

 弱音だって吐かないし、我がままも殆ど言わない。
 少しは甘えてもいいのではないだろうか。アルは母の代わりにはなれないが、父親や兄代わりにはなれる。
 ルカが寂しいと泣いた時、人の姿を取れば良かった。彼を抱きしめ、大丈夫だと言ってやりたかった。今になって思う。

「大丈夫だよ。一杯甘えさせて貰ってるから」

 そんなアルにルカはゆっくりと首を振る。
 アルはもう少し甘えろと言うが、甘えてばかりいられない。イクセやリオン、アティは自分を可愛がってくれる。だからこれで十分なのだ。

 それにルカは、今までだってアルに沢山、甘えさせて貰っているのだから。
 大丈夫だよ、と首を撫でるルカに身を委ね、アルはゆっくりと瞳を閉じた。
 願わくば、この安らぎがいつまでも続くよう。




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