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君に届く歌
I
部屋に戻ってくるなり、ルカは着替えも早々にベッドに倒れ込んだ。シャワーは既に浴びて来たため、このまま寝てもいいのだが制服がしわになる。
今日一日、本当に忙しかった。理事長に呼び出されたかと思うと、生徒会に強制的に入れられた。おまけに部活にも参加した。

幼い頃から父に鍛えられたお陰もあって部活は楽しい。今日は肉体的というより、精神的に疲れたのだ。

「はあ……先が思いやられる。大丈夫かな……」

今のところ、ルーアにしか知られてないようだが、油断は出来ない。生徒会として活動するようになれば自分の素性が知れる可能性もある。
一代にして富を築いた実業家、ゲイル・エアハートの息子だということを。

ルーアは別に気にしないと言っていたが、他もどうかは分からない。彼や理事長が例外なのだろう。紫電のレミエール家の当主であるエクレールなら色々便宜をはかってくれるかもしれないが、甘えるわけにはいかなかった。
ふう、とため息をついた時、ノックの音が響く。

「おーい、生きてるか?」

ドアから顔を出したのはルームメイトのイクセだった。ラフな格好に、シャワーを浴びたのか、頭にタオルが乗ってある。髪からは拭いきれない水が滴り落ちていた。

「あー……うん。何とか」

生きているのは間違いないが、精神的にくたくたである。どうにかベッドから身を起こすが、正直今日は何もしたくない。


「夕飯、購買で買ったんで良かったら食うか? 食べに行く気力ないだろ?」

「食べる! ……でも、いいの?」

言うイクセの手にはビニール袋が握られていた。ルカは思わず返事をしたが、流石に彼の夕飯を頂くのはまずい気がする。いくらルームメイトでクラスメイトでも、まだ出会って一週間も経っていないのだから。

「いいっていいって。お前も色々と大変だな。生徒会どうだったんだ?」

「んー……大変なのは大変だけど、理事長命令だし。俺逆らえないもん」

「確かにそうだな」

嫌でもルカに拒否権はない。イクセもそれに気付いたのか、あの人には逆らわない方がいい、と肩を震わせて笑った。



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あきゅろす。
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