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君に届く歌
B
『きみの名前は色んな意味で有名だから』

五限目を終え、ルカは疲れたように机に突っ伏した。思い出されるのは昼休み、イスラフィールに言われた一言。
そんなにも自分の名前は有名になってしまったのだろうか。
……全く嬉しくない。むしろ迷惑だ。

自分がゲイル・エアハートの息子だとバレないかが心配で仕方ない。
少なくても一般生徒は分からないはず。

ここが教室でなければあー、と叫んでいただろう。もう何もかもどうでもよくなって来た。

「おーい、ルカ。生きてるか」

「次、古文だよー」

死体のように突っ伏したルカを突いたのはイクセとルーアの二人である。
ルカはあれからこの二人とよく行動を共にするようになっていた。
のろのろと顔を上げ、二人を見た時だ。教室内に校内放送が響き渡ったのは。

『ルカ・エアハート。繰り返す。ルカ・エアハート。至急理事長室へ』

「え?」

理事長室に呼ばれる理由が分からなかった。
問題を起こしたはずもないし、理事長とは編入前に一度会っただけで、顔見知りでもない。
だが聞き間違いではないだろう。この学園にエアハートはいても、ルカ・エアハートはルカ一人だけだ。

「理事長に呼ばれるってどうしたの?」

「……俺にも何だか」

「早く言ったほうがいい。理事長怖いぞ」

「ええ!?」

耳元で囁くように言ったイクセに、ルカは思わず声を上げた。
イクセは不良ではないが、素行はあまりよくない。

そのイクセが言うのだから相当に怖いに違いない。ルカは広げた教科書とノートもそのままに、脱兎の如く駆け出した。
教室を抜けると廊下を走り、角を曲がる。理事長室前まで来ると深呼吸をし、ドアをノックした。

「ルカ・エアハートです」

「入りなさい」

すぐさま若い女の声が返って来る。理事長の声だ。失礼します、と一言声を掛けて扉を開けた。
真っ先に視界に入ったのは黒いスーツ姿の女性。年の頃は二十代前半から半ばほど。

黒掛かった紫の髪に切れ長の瞳は鮮やかなアクアグリーン。
くびれた腰にすらりと伸びた肢体。豊満な胸を強調するようにシャツのボタンは開けてある。見る者を惹き付ける美女だ。

「あの、何か御用でしょうか?」

不敵な笑みを浮かべた彼女こそ、アルカディア学園の理事長にして、紫電の一族の当主、エクレール=ミスラ=レミエールである。



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あきゅろす。
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