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ルカディア
ドラグーン
 地下深く続く階段の先に広がっていた光景に、二人は息を呑んだ。目の前にはウィスタリアがいた空間と同じような、幻想的な光景が広がっている。無数の魔水晶で地面、天井共に埋め尽くされており、鏡のような輝きを放つ水晶にはルカやイクセの姿が映し出されていた。
 ただ、あの空間とは違って息苦しさを感じることはない。

「アル……あれは……」

 アルとイクセはルカの声につられて、彼が指差す方に目を向ける。最奥にあるのは一際大きな水晶だ。だが驚くべきはそこではない。ルカの身の丈以上もある水晶の中に“それ”は眠っていた。

 丹念に作られた飴細工を思わせる金とも琥珀ともつかない髪に、愛らしい顔立ちの少年だ。一見した所、十代を少し越えた辺りだろう。

 両眼は力なく閉じられ、胸は彼が辛うじて生きている証拠に僅かだが上下している。
 抜けるように白い肌はまるで白雪のようであったが、それと相反するように少年の半身は金色の鱗で覆われ、背には竜族の証たる皮膜の翼が広がっていた。

『人造竜兵(ドラグーン)……か』

 アルが驚愕を隠しきれない声で呟く。ルカも一度として聞いたことのない名だ。

「ドラ……グーン?」

『ああ。かつて人竜大戦時代、滅竜歌が生み出される以前に、人が竜の魔水晶から造り出した兵器。それが人造竜兵だ。声を聞く者と同調することによって凄まじい戦闘力を発揮するらしいが、よもや完成体がいたとは……。ルカが声を聞いたのもこやつと波長が合ったからだろうな』

 遥か昔、この世界の技術は今とは比べものにならないほど高度なものだった。だからこそ喪歌を元にして滅竜歌を作り出せたのだが、それでも人は圧倒的な力を持つ竜族には敵わなかった。そこで人は竜の喪歌を研究すると共に、自分たちの力で人造の竜を作れないかと考えたのだ。

 竜の魔水晶を核とするそれは、竜同様強大な力を手にすることが出来た。
 しかし本来なら竜と言う器を持ってして、始めて持ちうる力である。人造の竜たちは強大な力を自ら操る術を持たなかったのだ。

 弱点を補ったのは声を聞く者。彼等が持つ一種の精神感応と言える力。声を聞く者が人造竜兵と同調することにより、竜の力を制御することに成功した。ルカがこの人造竜兵の声を聞いたのも波長が合ったからと言えるだろう。




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あきゅろす。
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