アルカディア
道の先へ
感じるままにルカは走った。どこを目指しているかなんて分からない。
ただ心が命じるままに足を進める。遺跡群を抜け、辿り着いた先は、ちょうど都市の中央部分、かつては広場だった場所だ。
地面には石畳が敷かれ、宝石のような美しい石が嵌め込まれている以外、変わった点はない。
しかしルカに呼び掛けていた声は確かにここからだった。直ぐ近くに感じる。だがどこなのだ。
「絶対にここから聞こえた……何かあるはず」
『これは魔水晶か!』
ルカに追いついて来たアルが驚きの声を上げた。あの遺跡に設置されていたものと同様の魔水晶。竜が死した時、残すそれはマナと魔力の結晶であり、強い力を秘めるという。
恐らくルカたちがこの空中都市に運ばれたのも遺跡にあった魔水晶が原因だ。
単体では効果を発揮しないだろうが、都市の魔水晶と遺跡の魔水晶は、転移の古代歌が掛けられた転送装置だったのかもしれない。
「じゃあ俺たちがここに飛ばされたのもそれが原因か?」
『恐らくはな。ただこの魔水晶自体には転移の古代歌は掛かっていない。受信専用なのだろう』
アルほどの魔力となればわざわざ飛んで降りなくとも転移術を操ることなど造作もないが、ルカがまだ留まると言った以上、彼は従うつもりだ。勿論、意外にお人好しな青年――イクセも。
「アル! これって……」
広場の中央にいたルカは急いでアルを呼ぶ。しゃがみ込んだルカの視線はある紋様に向けられていた。魔歌や喪歌を歌う時に描かれる魔法陣に似た紋様。
だがそれは魔歌でも喪歌でもないが、古代歌の魔法陣に似ている。
『魔歌でも喪歌でも、ましてや古代歌でもない』
「えっ?」
ルカが振り返り、紋様に手をついた瞬間だった。
魔法陣と広場に散りばめられた魔水晶が淡い光を放つ。まるで広場全体が煌めいているよう。幻想的な光の乱舞。そして轟音と共に地下へと続く階段が現れる。
「……行こう」
助けを求める声は聞こえなかった。この先に自分を呼ぶ声の主がいるかどうかも分からない。
だが進むしか道はないのだ。階段の先に何かがある。それが何かまでは分からないが。
ルカは意を決して、一歩を踏み出した。
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