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ルカディア
空中都市エリシオン
 一瞬、ルカたちを浮遊感が襲う。次に目を開けた時、彼等の視界に映ったのは、今までいた古代遺跡ではない。
 目の前に広がるのは、それよりも遥かに大きい古代遺跡群だった。まるでここだけ時が止まっているのではないかと思わせるほどに保存状態がいい。

 だが驚くべき事はまだある。目に入るのは遺跡とどこまでも広がる青い空。そう、この遺跡群は空に浮かんでいるのだ。思わず下を見れば、あまりの高さに目が眩みそうになった。何せ雲が下にあるのだ。

「ここは……?」

 一体どこなのだろう。数十秒前までは別の遺跡にいたというのに。先ほどの光と魔水晶が自分たちをこの遺跡へ運んだとでも言うのか。
 ルカが思わず呟いた一言に答えるようにアルは独りごちた。

『……空中都市エリシオン。かつて人と竜が暮らせし楽園と謳われた場所』

 アルも実際に目にしたことはない。知識として知っているだけ。なんせ昔は人や竜にさえ関わらなかったのだから。

 人竜大戦時代、全ての竜と人が敵対していた訳ではない。一部の竜や人間たちは戦うことをよしとしなかった。その中でも人と竜が手を携えてくらしていた秘境があったという。空中都市エリシオンはその秘境の一つだ。

「しかし何で浮いてるんだ?」

 イクセは自分の足で蹴って確かめる。すると硬い岩の感触が返って来た。

 どうやら大きな岩の上に遺跡群があるようだが、都市の重さを支えるとなれば生半可な力では叶わない。
 古代歌を使ったとしても、これだけの質量を空に浮かべることなど可能なのだろうか。

『浮遊岩だろう。私もここまで巨大なものは見たこと無いが……』

「浮遊岩?」

『そうだ。今では殆ど目にすることはないがな。恐らく浮遊岩に古代歌を掛けているのだろう。……ルカよ、声とは何だ?』

 浮遊岩とはその名の通り、大量のマナを含んだ岩のことである。現在は殆ど見かけなくなったが、千年前はそれほど珍しいものではなかった。

 しかし浮遊岩の力を持ってしても、都市一つを空に浮かべるのは難しい。古代歌を掛けることで浮遊岩の力を増幅させているのだろう。かなりの力業であるが、竜だからこそなし得るものだといえよう。

「……分からない。誰かが助けてって言ってたんだ。普通の声じゃない。頭の中に直接響いて来るような声だった。アル、俺たちを乗せてここから降りられる?」

 アルの問いにルカは首を振って答える。その声も今は聞こえない。助けを求める声が自分たちをこの空中都市と呼ばれた遺跡群に導いたのだろうか。再度意識を集中しても声が聞こえることはなかった。

『可能だろうな。だが、声が気になるのだろう?』

 アルならずとも竜族は風の流れを感じ取ることが出来る。空を自在に舞う竜族特有の能力でまず風を読み間違うことはない。

 だがアルにはお見通しだったらしい。ルカはどうしても自分を呼ぶ声が気になっていた。それが助けを求めるものなら尚更。




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あきゅろす。
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