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ルカディア
打ち捨てられた遺跡
 打ち捨てられたかのように佇む古代遺跡。一寸先も見えない暗闇の中に淡く輝く光の球体が浮かんでいる。そんな朧月のようにほのかな光に照らされているのは、二人の人間と一匹の竜だった。

 一人は目にも鮮やかな、海を思わせる青い髪と黒掛かった赤い瞳を持つ十代半ばほどの少年である。真剣そのものと言った顔には年頃の少年が持つ浮ついた雰囲気は微塵もない。

 そして少年の前を歩くのは二十歳前後の青年だ。アメジストより深みのある紫の瞳に、闇に溶け込むかのような長い黒髪を頭の上辺りで結んでいる。
 人間ではないもう一人、銀色の鱗を持つ竜は少年の肩に乗っており、光ほどではないにせよ僅かに銀光を放っていた。

「この遺跡、随分古い物なんだね」

 足元に気をつけつつ、しかし顔は前を向いたままルカは言う。明かりがなければ自分の周囲すら何があるのか分からない。今はまだ暗闇に目が慣れて来たからいいが、床が崩れているところがないとも限らない。

「建物の老朽化具合からすると数百年単位も前のものだろうな。魔歌か何かで補強はしているようだが……」

 黒髪の青年――イクセが呟く。造り自体はその時代の技術に酷似しているが、ここまで保存状態の良い遺跡は類を見ない。

 ただ保存状態がいい訳ではない。何らかの術が使われている。魔歌にそれほど詳しいとは言えないイクセにもそれくらいは分かった。
 しかし人が操る魔歌では何百年単位ももつはずがない。

『魔歌ではない。これは喪歌、いや、古代歌だ』

 とその時、初めてルカの肩に乗った竜が口を開いた。古代歌は喪歌の中でも現在では失われた歌や伝える者のいなくなった歌を指す言葉だ。ただし喪歌と古代歌の境は非常に曖昧である。

 竜族の中でも強い魔力を持つ者でしか扱えないとされるそれを扱えるのは、もう始竜たちとアルから古代歌を教えられたルカのみ。

「こんな遺跡に?」

 遺跡自体は多少珍しい造りではあるが、多くの冒険者が訪れたことや遺跡荒らしのお陰でめぼしい物も変わった発見もない。
 ではこの遺跡に古代歌がかけられている理由はなんだ。

 そもそも二人と一匹が何故、打ち捨てられた遺跡に足を運んだのかと言うと勿論、ギルドの依頼である。
 何でも考古学者の依頼主が遺跡に入った際、魔物に追い回されて護衛とはぐれた挙句、今までの研究結果を纏めた荷物を落としたらしい。

 逃げ帰った後でそれに気付いた彼は慌ててギルドに依頼したらしいのだが、逃げることに必死で落とした場所の見当すらつかないというのだ。




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あきゅろす。
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