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ルカディア
共に存るとの誓い
 ギルドを出た二人と一匹が訪れたのは、街の中心に位置する広場。水が豊かなアルストロメリアを象徴する大きな噴水が目を引く。

 まだ朝も早いが、運動をする者や朝の散歩をする者など結構な人を見かけることが出来た。アルストロメリアはかなり大きな街であるが、広場の周辺には木々が植えられ、鮮やかな花々が咲き誇っている。
 ルカとイクセは空いていたベンチに腰掛け、アルは話をし易いように手摺に飛び移った。

「……ねぇ、アル。何か言いたいこと、あるんじゃないの?」

 噴水を見据えたままルカは問う。目の前では子供たちが噴水の水を掛け合ってはしゃぎ回っている。朝から元気な限りだが、彼らには朝も昼も関係ないのだろう。

 対するアルは無言。まだ話していいものか悩んでいるのかもしれない。以前ならアルが話したくないのなら、ルカも無理に聞こうとは思わなかった。
 けれど、シャーレンの一件があってからアルの様子は明らかにおかしかった。暫しの沈黙の後、アルは重い口を開く。

『……正直な話、私も何と説明したものか困っているのだ。話せばお前を巻き込んでしまうかもしれない。そうなればお前まで危険に曝すかもしれないのだ。ルカよ、それでも尚、知る覚悟はあるか?』

 アルを見れば美しい金の瞳と目が合った。知る覚悟はあるか、彼の顔と声は真剣そのもの。アルがここまで言うのなら、本当に危険に曝されるのだろう。

 だがそれが何だというのか。例え危険が身に迫ろうが構わなかった。ルカにとってはそれよりも、アルがいなくなってしまう方がずっと怖い。ルカは案じて欲しい訳ではなく、彼が背負うものを少しでも背負わせて欲しいのだ。

 イクセは口を挟むことなく、二人の会話を聞いている。ルカはアルの瞳を見据え、無言で肯定の意を示すように頷いた。

『お前たちの言葉で言うのなら同族だろうが、私と同じ存在(もの)が今、命の危機に瀕している。このまま何もしなければ、確実に命尽きることだろう。しかもその者が受けた傷は喪歌や古代歌では癒すことが出来ない。何故ならそれは、竜を滅ぼすためだけに編み出された魔歌だからだ。今はこことは別の空間にいるが……。本来ならお前に頼むべきなのだろう。しかし、お前を巻き込むと分かっていて、私は言えなかった』

 人には効かず、純粋なマナで構成された竜のみを傷付ける。受ければまず無事では済まない。例え生き残ったとしても、その傷は喪歌や喪歌よりも上位とされる古代歌の癒しすら受け付けぬ。それは正に竜族を滅ぼすためだけに生み出された狂気の魔歌。

 アルと“同族”だからこそ、“彼”はかろうじて命を繋ぎ止めている。今は純粋なマナが溢れる空間にいるようだが、それでも尚助かるかどうか……。

 『アル』が助けられない以上、ルカに助けを求めるべきなのだろう。本来なら迷うことすら許されない。 けれど、もし彼と引き合わせれば、ルカを自分たちの事情に巻き込んでしまうかもしれなかった。それだけならまだいい。彼を傷つけた相手がルカを傷つけないという保証はどこにもないのだ。

 だからアルは迷っていた。話せばルカは絶対に行くと言いはるだろう。危険に曝されると分かっていても、誰かを見殺しにするような少年ではないからだ。

「アルはその人、って言うのもおかしいけど、会いに行きたいんだよね? なら俺も行くよ。喪歌や竜の古代歌じゃ助けられないのなら、魔歌で助けられるかもしれない。それに……アルはずっと俺と一緒にいてくれるんでしょ?」

 ルカはふわりと笑ってアルの頬に手を添える。『アルトゥール』は人間の少年と共に生き、共に存ることを誓ってくれた。約束してくれたことが、ただ純粋に嬉しかったのだ。
 母が死んでから、父は滅多に帰ってこなくなった。寂しくて悲しくて、震えるルカにアルは言ってくれた。この命ある限り、共に在る、と。



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あきゅろす。
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