アルカディア
冒険者の証
「おはよう二人共。アル君もね」
「元気そうで良かった。昨日沈んだ顔をしてただろう?」
二人とアルを出迎えたのは、昨日と同じようにカウンターに立つリリスとアーヴィンだ。
彼の腕には包帯が巻かれているが、昨日よりか楽なのか動作は自然そのものである。アーヴィンはグラスを磨く手を止めて柔らかく微笑みかけた。
もしかして自分はそんなに顔に出ていたのか。どうやらリリスも気付いていたようで、ルカは急に恥ずかしくなって俯く。
「あ、はい! すみません。ちょっと色々あったんで。でももう大丈夫です!」
心配してくれた二人に申し訳なくて、ルカは何とか笑みを作った。
だけど“彼”を助けられなかったことを思うと辛い。
でもそれと同時に、ちっぽけな力で誰かを救えるなど思い上がりだと思う自分もいる。あれで本当によかったのだろうか。何か別の方法があったのではないのか、と何度も考えてしまう。
考えた所で“答え”が出ないのは分かりきっている。
しかしそれを止めることはルカには出来なかった。
ただ皆に心配をかけたくない。その一心でルカは何でもないと笑う。少年の気遣いに気付いたイクセはルカの頭に手を置いた。無理をするなとの意味を込めて。
「そう? ならいいんだけど……」
「そうそう、ルカ君も晴れて冒険者になった訳だし、肝心な物を忘れてたわ。今から渡す物は、ライセンス代わりだと思ってちょうだい。冒険者のランクは石の色を見れば直ぐ分かるわ。ルカ君はまだ取ったばかりだから緑よ。後は順に赤、青、紫ね」
リリスもアーヴィンもルカより人生経験豊富な“大人”である。二人はルカの様子から何かを察したようで、深く追及することは止めたようだ。
気を取りなおしたリリスが差し出したもの。不思議な輝きを放つフォレストグリーンの宝石が嵌め込まれた耳飾りだった。シンプルだがそれ故に無駄な細工がなく、ルカが好きなデザインである。
この石は冒険者の身分を証明する物であり、石の色で持ち主のランクが分かる仕組みになっているらしい。
「ちなみにイクセって勿論……」
リリスが持つ耳飾りを見てふと思う。そういえばイクセのランクを示す石は何色だろう。隣のイクセに視線を向けると、彼は笑いながら無言で刀を見せる。
その剣帯には飾りが付けられていた。石の色は言うまでもなく『紫』。冒険者の最高位である。
「……ですよねぇ」
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