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ルカディア
絆を繋ぐもの
 武器屋を後にしたルカ達は、その足でギルドへと向かう。
 冒険者としての正式な手続きを行うためだ。
 ギルドは昨日訪れた時とは違い、静けさに包まれていた。もっとも、ギルドの“静か”の定義は普通の“騒がしい”であるため、あてにはならないが。

 ここのギルドは酒場でもあるため、まだ朝だと言うのに多くの人で賑わっている。朝っぱらから酒をあおる者、テーブルに突っ伏して眠る者、ポーカーに興じる者など様々だ。
 ルカがそんな彼らを見回しながら歩いていると、その度に誰かに話し掛けられる。カウンターに向かうまで一体何人に声を掛けられたか。

「ねぇ、イクセ。なんでこんなに話し掛けられるんだろ?」

 当の本人は小首を傾げてイクセに問うた。本当に話しかけられる理由が分からないのだろう。やはりこの少年は鋭いのか鈍いのか分からない。昨日あれだけ目立っていたのを忘れたのだろうか。それともルカの基準では目立つ、に入らないのかもしれない。
 肩に乗ったアルはそんな彼に慣れているようで、頭を押さえようとしたイクセを見て、微かに笑っている。

「あのなぁ。昨日あれだけ目立ってただろうが」

「目立ってた?」

「昨日魔歌を歌ってただろう。後、俺が付いて行ったせいもあるけど」

 目立ってた、と言われてルカは本当に不思議そうな顔をしていた。確かに喧嘩を止めたが、それだけで話しかけられるとは思えないからだ。
 問題なのは喧嘩を止めたことではない。何、で喧嘩を止めたのか、だ。とは言え、ルカが声を掛けられた理由はイクセにもあった。人を近付けぬことで有名なイクセが成人を迎えて間もない少年を気に入って同行したというのだから、冒険者たちが興味を示すのも仕方がない。

「あ、あれ? 俺にとって魔歌を歌うことは別に特別なことでもないから、全然気付かなかったよ。ってかイクセのせいじゃん!」

 普通、魔奏士は滅多に魔歌を歌わない。少なくても喧嘩の仲裁には使わないだろう。それは彼等が力を見せつけることを嫌うからだ。
 魔歌は学べばある程度、誰でも扱う事は出来るが、歌が重要な意味を占めるため、個人の落差が激しい。
 特にルカが歌った『絶対氷結』など高度な魔歌となれば、歌える者も限られてくる。それはつまり、魔奏士であっても雲泥の差がある場合もあり、自らの手の内を見せないという意味でもあるからだ。

『ルカはエランディアでもよく歌っていたからな』

 アルが言うように、ルカは故郷ではよく歌っていた。仲の良い子供たちにせがまれるからだ。勿論、歌うことが好きなのも理由の一つだが。それにルカにとって魔歌は自分とアルを繋いでくれたきっかけでもあり、人と人を結ぶもの“絆”であって隠すべき特別なことではない。



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