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ルカディア
忙しい少年
 昨日は色々と手一杯で街中を見て回ることも出来なかったが、アルストロメリアはエランディアとは全く違う。
 エランディアにも朝市はあるが、露店に並ぶものは随分違う。新鮮な魚介類や野菜が並んでおり、威勢の良い声が飛び交っている。目にする物全てが珍しく見えてルカは思わず顔を綻ばせた。

 故郷の街は海に囲まれていることもあり、ジャムなどの保存がきく物を除いて新鮮な果物や野菜は貴重だった。
 エランディアでも野菜は栽培されてはいたが、潮風に耐えられるものとなれば限られてくる。果物も同じだ。

「そんなに珍しいのか?」

 嬉しそうに顔を輝かせるルカを見て、イクセは露店にある林檎を買って手渡した。
 ルカが思いきってかじると、みずみずしい林檎の爽やかな味が口内に広がる。

 嬉しそうに林檎を頬張るルカだが、一体どんな辺境に住んでいたのか。アルストロメリアは街の中でも一般的で、他と比べて変わった所もない。
 イクセの故郷も島国であるが、生鮮食品は豊富だっため、大陸に来て驚くことはなかった。

「うん。イクセには言ってなかったよね? 俺はエランディアの出身なんだ。だから街を出るのも初めてだよ」

「へえ、あの変わった風習の」

 エランディアには不思議な風習があるとイクセも聞いたことがある。
 確か成人を迎えるまでは街を出ることを許されない、そんな感じだっただろうか。言われてみれば依頼の最中も街道をきょろきょろと見回していた。

 しかしそれにしては戦い慣れていると思うのだが。
 イクセは彼にしては珍しく怪訝な表情をしている。こう見えて聡いルカは、彼の疑問に気付いたようでああ、と声を上げた。

「エランディアで何でも屋紛いの仕事してたから。基礎は父さんから教わったんだけど、結構魔物も出るしね」

 一口に魔物といっても様々で、ひっそりと住んでいるものもあれば、人に牙を剥く魔物もいる。
 何でも屋の仕事には、そう言った人に害なす魔物の退治も入っていたのだ。
 ルカの父、ゲイルは運び屋をしていることもあって剣術の心得があった。ルカは知らないことだが、会話に困った彼は徹底的に息子に剣術を教え込んだのである。

「なるほど。道理で街を出たばかりでも戦い慣れてるわけだ。で、どこか行きたい所あるか? ギルドに行くにも急ぐことでもないだろうし」

「んー、じゃあ武器屋に寄っていい?」

 イクセが何故だと尋ねると、ルカは二の腕に付けているスローナイフの鞘を指差した。
 アーヴィンを助ける時に投擲して回収するのをすっかり忘れていたのだ。




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