アルカディア
ルカの不安
深いまどろみの中でルカは二人の人間の声を聞いていた。
誰が誰を置いて行く? 命の危険? 一人はイクセの声だ。もう一人は……誰なのだろう。聞いたことのない声。だけどどこか懐かしい。
会話の内容は耳には入って来る。ただ覚醒していない頭では理解出来ないだけだ。
やがてドアが閉まる音を境に、部屋は静けさに包まれた。薄れ行く意識の中で誰かが優しく頭を撫でた気がした。
瞼をさす光で目が覚める。ゆっくりと目を開ければ朝日が眩しい。目が光に慣れ、真っ先に視界に入った白い天井。故郷エランディアではないのだ。アルストロメリアの宿屋である。
昨日の夜は色々あったせいか直ぐに眠ってしまったらしい。ルカが上体を起こすと、アルは既に起きていて、窓際に座って外の景色を眺めていた。
それなのに何故か不安になる。金色の瞳を外に向けた彼は景色ではないどこかを見ているよう。不安になり、思わず親友の名を呼ぶ。
「アル?」
『ん? 起きたのか?』
振り向いたアルは、ぱたぱたと翼を羽ばたかせ、定位置であるルカの肩に乗った。
こちらを見るアルは普段と何ら変わらない。気のせいだったのだろうか。
今のアルはちゃんと目の前を、ルカを見ている。
「うん。……朝ご飯食べに行こうか」
気のせいだったのかもれない。
深く考えるのはよそう、とルカはベッドから起き上がり、背伸びをする。身支度を整えると一階に向かう。
食堂に着いたルカは正に目が点になった。昨日別れたはずのイクセがカウンター席に座って手を上げていたからである。
着崩した黒い服に、腰には長剣と刀と呼ばれる不思議な剣。艶やかな長い黒髪をこめかみ付近の髪だけ残し、上辺りで適当に紐で結んでいる。いわゆるポニーテールというやつだ。
「あれ? なんでイクセがここにいるの?」
「言ってなかったか? 俺もここに泊まったんだよ」
ルカが泊まったこの宿屋は大きいし、同じ宿になる可能性もなくはない。
だが聞いてないよ、と驚くルカを尻目にイクセはただ面白そうに笑っていた。
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