アルカディア
霊山の守護者
「ここに竜が住んでるんだよね? でもどこに居るんだろ」
暫く歩いたルカたちは目的地に辿りつく。アルストロメリアとデウスの中間に位置する霊山は、厳かに三人を迎えていた。
見上げる山は遥か高く、頂上付近は深い雲で覆われている。かなり高いのだろう。
この山、アルセニスは古くから大地を司る神、クロノスが宿るとされ、地元の人々から崇められてきた。
そしていつの頃からか、この山に住む竜を恐れ、あるいは敬い、守護者と呼ぶようになったのだ。
アーヴィンの話では竜は、麓付近にいる事が多いというが、竜どころか動物すら見つからない。
先ほどまで晴れていたと言うのに、澄んだ青は全てを塗りつぶす灰色へと変わっていた。
『その必要は無い。お出ましのようだ』
アルが口を開いた瞬間、ルカの周りだけが暗くなった。
刹那、目を開けていられないほどの突風が巻き起こり、何かが羽ばたく音が耳に届く。
「守護者と言われるのもあながち間違じゃないってか」
呟くイクセを彩るのは、やはり皮肉めいた笑みだ。
現れたのは強大な竜。ルカが両手を広げても到底足りない。鞭を思わせるしなやかな尾に、皮膜の翼は蝙蝠に似てはいるが全く違う力強さに溢れている。
見るからに硬そうな真紅の鱗は光沢を放ち、一際存在感を示していた。
頭部から生える角はルビーの結晶を思わせる。
竜は燃え盛る炎に似た宝石のような瞳を三人に向けた。
『何者だ?』
ただ、ただ一言。その一言が空気を震わせる。だが不思議と恐怖は感じなかった。問答無用で襲って来ることもなく、見る限りでは様子がおかしいとは思えない。
しかしこれは冒険者組合(ハンターズギルド)の正式な依頼である。
「俺はルカ・エアハートと言います。実はギルドの依頼で貴方の様子がおかしいと聞いて……」
ルカは名乗ると、正直に事の次第を話した。
偽っても仕方の無いことだし、何よりルカはそんな事をしたくはない。
声からして彼、だろうが、普通の人間なら彼を相手にしてこうも落ち着いてはいられまい。
威圧的ではないが、強大な竜に見下ろされて恐怖を感じない者の方が少ないからだ。鋭い牙や長く伸びた爪は本能的な恐怖を呼び起こす。
『我はシャーレン。この地に住む竜だ。悪い事は言わん。人の子よ、今すぐ此処を立ち去るが良い……死にたくなければな』
相手も予想外のルカの反応に驚いたように目を細める。ただアルだけは何かを感じたようで静かに首を振った。
シャーレンが発した言葉は決して自らが望んだものではない。少なくてもルカは間違いないと思う。
何故ならシャーレンは拒絶しながらも訴え掛けるような、それでいて助けを求めているような悲痛な瞳をしていたからだ。
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