アルカディア
魂の内
もうすぐ“全て”が終わる。何と滑稽なのだろうか。何もかもが自分の手の上で踊っているのだ。いつから狂ってしまったのだろう。千年前から? それともこの世界に生まれ落ちた時より?
或いは、いっそ己も分からぬほど狂った方が幸せだったのかもしれない。だが魂の内にはまだ、己の意識がある。ヴァイスファイト=グラフ=ノスフェラートという存在が。
明けない夜などない。そう言ったのは誰だったか。
しかし、ヴァイスファイトの夜は“明けない”し、望むものは手に入らない。自分はただ願っただけなのに。それなのに止められなかった。
始竜という鎖から解き放たれたはずが、今のヴァイスファイトは羽ばたくことを禁じられた小鳥同然だ。
“世界”を感じられない。声が聞こえない。なら、全て壊してしまえばいい、ともう一人の自分が笑う。
「……来たか」
例え視えなくても、感じることは出来る。待ち侘びた存在。決着をつけるためにここまで呼び寄せた。かつて“暁闇”の領域であった場所へ。
ヴァイスファイトは待っていた。暁闇を示す薄紫色の魔水晶は無残に砕け、ひび割れて渇いた大地を踊っている。生命の輝きは皆無。生きているものなど何もない。
ある意味では、楔である始竜を失った世界の末路を現している光景とは言えないだろうか。
同じ始竜でもリオンやウィスタリアの領域とは違う。ここには力強く輝く赤や、真っ直ぐに澄んだ美しい青など生命が放つ輝きがないのだ。
現れた人影は三つ。二人はヴァイスファイトの予想通り。なのに、最後の一人だけが違った。
海の青でも空の青でもない髪をした少年と、彼に寄り添うように立つ銀髪の青年。そして最後は炎よりも鮮やかな赤い髪と、蠱惑的なバーガンディの瞳を持った青年。ルカとアルは分かっていた。それなのにリオンの登場だけは未だに信じられない。最後の一人はイクセだと思っていたのに。
「全部終わらせよう。お前の罪も、受けるべき罰もオレが背負う。最初からこうするべきだった」
千年より昔、もっとも己に近かった赤毛の青年は、彼には似合わない憂いを湛えた表情で言った。記憶を思いおこさせるような明るい声でも、騒がしい声でもない。かつて、彼がこれほどまでに悲しみを露にしたことがあっただろうか。
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