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ルカディア
掴み取る未来
 漣桜花が発動したことで、ルカたちを覆っていた竜封じの結界は砕け散った。とは言え、その程度で諦めてくれるほど、ヴァイスファイトも甘くはない。
 アルたちを囲んでいた何百もの魔水晶が集まり始めたのである。例えるならそれは巨大な、魔水晶で作り上げられた竜だった。爛々と輝く水晶の瞳に鋭く伸びた牙。精緻な硝子細工を思わせる両翼も硬質的な輝きを放っており、不気味なことこの上ない。その瞳に生命を感じさせる光はなく、まるで人形のようだ。
 数は百体以上はいるだろう。逃がさないとばかりに竜たちを、人を、そしてルカたちを囲んでいた。

「一体何だっての。悪趣味なことこの上ないな」

「かわいそうな子たち。水晶となってもまだ死ねないなんて」

 水晶の竜を見たリオンは舌打ちし、アティは悲しげに目を伏せた。彼らはヴァイスファイトが殺した竜たちが残した魔水晶より作られている。術者の命令通りに動く傀儡だ。
 ゼフィがゲイルを庇うように前に出ると、イクセは無言で腰の刀に手を掛ける。イシュリアは本来の、水晶の翼を持った狼の姿となっており、ウィスタリアの隣に並んだ。

「近くに……いる。どこだ?」

「高見の見物か、暁闇よ。随分と小細工をしてくれたようだ」

 夜色の目を細め、周囲を見回すミラにアルは嘲るように笑った。当然、その彼からの答えはない。竜の大群を目にしてもアルは静かだった。
 或いはそれが合図だったのか、水晶の竜たちが咆哮を上げ、ルカたちに襲い掛かる。その瞬間、仲間たちは思念で言葉を交わした。

『ミリィ、ルゥ、ルカ。ここはぼくたちに任せて彼のもとへ』

『私なら心配無用です。そうですよね、ゲイル様?』

『ああ、行ってこい。俺たちはここで一暴れさせてもらうぜ』

 アティが微笑む気配がした。ここで時間は掛けられない。それにヴァイスファイト自身が望んでいるだろう。ルカたちとの相対することを。ゼフィもいつも以上に明るい声を出し、ゲイルは照れたように笑みを漏らす。

『水晶の竜が相手ってのも、悪くないな。アル、ルカを頼む。俺より、リオンが行った方がいいだろ。……頼む、終わらせてやってくれ』

『……ありがとう、イクセ。必ず止めるから』

 イクセは躊躇いなくリオンに声を掛ける。ヴァイスファイトが望んでいるのは恐らくリオン。違う存在とは言え、今はほんの僅かに彼の心を感じることが出来た。
 それでもヴァイスファイトの考えまでは分からない。全ては闇に閉ざされている。それとも、終わらせてくれる存在を待ちわびていたのだろうか。泣きそうな声で礼を言うリオンに、数秒の沈黙の後、イクセは言った。親友なんだろ、と。

『イシュリア、夢幻と共に人と竜を守れ』

『仰せのままに。……どうかご武運を』

『お膳立てなら喜んで引き受けようぞ』

 ウィスタリアの声にイシュリアは頭を垂れると、ミラも愛らしい顔を綻ばせて首肯する。皆の声を聞いたルカは胸が熱くなる思いだった。
 仲間たちはここは自分たちに任せ、ヴァイスファイトの元へ行けと言ってくれているのだ。短い言葉の中に込められた想いが伝わってくる。

『みんな……』

『すまない。……後は頼んだぞ』

『フィー、俺の代わりにみんなをサポートしてやってくれ』

 躊躇いなく自分たちを送り出してくれる仲間たちにルカはそれ以上、言葉を紡ぐことが出来なかった。
 アルは同胞たちの思いを噛み締めるように俯き、リオンは己の眷属を喚び出す。現れた火の鳥は主の命に頷き、その手から羽ばたいて行った。

『みんな、ありがとう……。あの人と決着を付けてくるよ』

 万感の思いをもって、ルカは礼を言った。悲しみの連載を断ち切り、彼の魂を解放するため。誰かに導いてもらう未来なんていらない。未来は自らの手で選び取るもの。例えそれが滅びの道であっても、ヴァイスファイト一人が決めることではないのだ。
 それに、誓ったから。ルーアのためにも、この美しくて、同じくらい汚い愛しい世界の結末を見届けると。



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あきゅろす。
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