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ルカディア
漣桜花
 アルと一緒なら何だって出来る。幼き日のルカは何の疑いもなくそう信じていた。それは今も変わらない。少し過保護で時には家族、親友である相棒。人だから、竜だからは関係ない。ただのルカとアルであった頃から、彼はルカにとって大切な存在だった。

『舞い落ちる花弁、其の色彩(いろ)は泡沫の証。儚き人の性を表すもの。其は定めに散り逝く美しき紅(くれない)。刹那の生(いのち)は今此処に永久(とこしえ)の誓いとならん。遥かな詩は世界に響き、世界は歌に満たされる。限り在る(ひととき)の命(せい)と知るならば、今導きの声に応えよ――漣桜花』

『舞い踊る花弁、其の色彩(いろ)は存在の証。猛き竜の性を示すもの。其は悠然と咲き誇る雄々しき紅(くれない)。久遠の色(しきさい)は今此処に刹那の誓いとならん。遥かな咆哮(こえ)は世界に響き、世界は声に満たされる。色褪(きえ)ることなき生と知るならば、今我が導きに応えよ――漣桜花』

 澄んだ鈴の音のようなルカの声と、堂々とした、それでいて耳を傾けずにはいられないアルの声が重なる。人と竜を表した詩を人(ルカ)と竜(アル)が奏でる。それはきっと、魔歌でも喪歌でもない。これは本来なら魔奏士同士が別々の歌を歌い、一つの強力な魔歌を紡ぐために作られた技法――二重唱(デュエット)と呼ばれるものだ。

 強い力を持つ竜族とは違い、力で劣る人族が生み出したもので、強力な竜の喪歌と共に唱えた魔奏士がルカを除いて何人いるか。それとも、この二重唱を生み出した人物は、竜と心を通わせる者(ドラグナー)だったのだろうか。
 どこからか聞こえた鈴の音。それは正に妙なる調べ。重なりあう声と鈴の音は聞く者を魅了する。場を満たすのは清浄なる空気。

 漣桜花。結びの言葉を口にした直後、無数の薄紅色の花弁が光と共にひらひらと舞い落ちた。薄紅色の結界がルカたちを覆うように広がっていた結界とぶつかり合い、甲高い音を立てて砕け散る。
 青く澄んだ空が覗いたと思うと、アルたちを戒めていた不可視の力が消えた。



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あきゅろす。
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