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ルカディア
掛けられた術
 アルが飛んだ先は、青々とした草の海――大平原が見渡せる高台だった。正面には静謐ささえ感じさせる竜の峰が鎮座していた。
見下ろした先には、エスメラスの王に従う大軍と立ち塞がる百頭はいるであろう竜たち。数だけで言えば圧倒的に人が勝っているだろうが、人と竜では力が違いすぎる。例え何人いようとも、竜に傷を付けることすら難しい。魔奏士であろうと生半可な者では歯が立たない。

「間に合ったか……?」

 硬直状態に陥っている人と竜を見下ろしてイクセが呟く。張り詰めたような空気が漂っている。その直後、マナに敏感な始竜たちとルカは気付いた。収束する大量のマナに。即座に人の姿を取ったアルが素早く指示を飛ばす。

「紅蓮、蒼穹、風天、人に防御結界と拘束を。豊饒は私と共に竜を」

 竜の喪歌を受ければ人間など一たまりもない。それにこの中にヴァイスファイトの力は感じなかった。彼が何をするつもりか知らないが、黙って見ていられるはずがない。高台から消えたルカたちは大軍の真っ只中に出現する。
 ルカたちの登場と同時に、響く竜たちの咆哮。空中に描き出された無数の魔法陣――そこから放たれた荒れ狂う炎、雷、風。竜の喪歌は人の防御魔歌など容赦なく突き破るだろう。

 人と竜の大軍に挟まれる形になったルカたちは、リオン一人が竜たちの喪歌を防ぐために障壁を張り、ゼフィとウィスタリアが兵士たちを拘束する。
 赤光の障壁に走った衝撃と爆音。その程度ではリオンの障壁は揺るがない。一方、竜たちは金色の光の鎖によって動きを制限されていた。アルとアティの力である。その中でルカは異変を感じ取っていた。

「ねえ、何だかおかしくない? まるで俺たちの姿が見えていないみたい……」

 様子がおかしい。ルカは身動きの取れなくなった二つの種族を見比べる。まるで、人も竜も自分たちの姿など目に入っていないかのようだ。竜たちの声には戸惑いが、人の声には動揺と恐怖が混ざっていた。

「まさか……幻術か」

「これほどの人数を? 解く方法は何かないのか?」

 真っ先に気付いたのはやはりアルである。彼らにはきっと彼らの敵しか見えていない。だからこれほどまでに戸惑い、恐怖している。恐らく、自分達が来ても簡単に戦いを止められないようにヴァイスファイトが先手を打ったのだろう。
 アルの言葉を聞いたゲイルは訝しげに眉を潜めた。彼は仕事柄、魔歌にも通じている。いくらミラ、という子供が始竜の力を持っているとは言え、半分も発揮していない程度でこれかと。

「術者を見つけるしかないね。無理に解けば精神崩壊を起こしかねない」

「術者は勿論、夢幻だな」

 拘束の手を緩めぬまま、アティが言った。ウィスタリアも彼の意見に同意する。夢幻の君が彼らに掛けた幻術は非常に高度なもの。術者以外が力づくで解こうとすれば、幻術を受けている人間、竜共に精神崩壊を起こしてしまう。厄介だが、術者である夢幻を見つけなければ。




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