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ルカディア
意外に鈍いんです
 大概の人となら直ぐに打ち解けるルカだが、少しだけ緊張していた。それは彼が父に似ているからかもしれないし、まったく別の何かかもしれない。

 アルストロメリアを出た二人と一匹は早速目的地に向かう。
 しかしながらルカ自身にエランディア以外の土地勘は無いし、アルはそもそも歩かないので同様である。
 そうなれば自動的に青年について行くことになるのだが、やはりただ者ではない。
 
 重そうな靴を履いていると言うのに、全く足音がしないのだ。
 おまけに鎧どころか鎖帷子すら着ている様子はなく、上着とシャツ一枚の動き易い軽装。見た感じでは得物は無造作に腰に下げた長剣と刀だろう。

 どこまでも冒険者と言う常識から外れているのか。そもそも髪が長い辺りからしてそうだ。
 さほど手入れはしていなさそうだが、艶やかな黒髪は風でゆらゆらと揺れている。
 
 しかし普通、冒険者(ハンター)の男で髪を伸ばしている者はいない。長い髪、それを纏めもしないものは戦いでは邪魔だからだ。

「イクセルさん、でしたよね?」

「イクセでいい。それと敬語も必要ないからな」

 おずおずと名を呼ぶと、イクセル、否、イクセは唇の端を上げて笑う。敬語も必要ない、と。
 折角の整った顔立ちなのだが、皮肉めいた笑みのお陰で若干物騒に見える。
 
 本人が敬語は必要ないと言うのなら、ルカが無理をして敬語を使う必要もないだろう。
 緊張した面持ちでイクセを見上げる。

「分かりまし……じゃなくて分かった。イクセ、これでいい?」

『イクセル、お前は声を聞く者としての力は強いようだな。まあ、ルカには及ばんが』

 正直な話、ルカも敬語は苦手だ。気を使っているようだし、何だかくすぐったかった。声を聞く者だと初めはイクセを褒めたものの、最後に取って付けたのはアルらしい。
 しかし驚いたのは当の本人ではなく、隣を歩くルカである。

「えっ、イクセって声を聞く者だったんだ」

 アルが話していても気にした様子はなかったし、ルカとアルの会話にも特に反応していなかった。てっきり声を聞く者ではないと思っていたのである。
 
 ルカの予想外の一言にアルとイクセが笑い出したのは同時だった。
 普段なら文句なく勘が良い少年は意外に鈍いらしい。




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あきゅろす。
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