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ルカディア
失敗作だから
 走馬灯、と言うのはこういうことを言うのだろうか。自分があの人に作られてから、竜を殺すためだけに存在していた。この手で数えきれないほどの竜を殺した。自らの意思ではないとは言え、それは間違いなくルーアの罪だ。

 体を裂かれるような激しい痛みに意識が覚醒する。白いシャツは血に塗れ、傷口からは絶え間なく血が流れ続けていた。動く度に激しい痛みが襲い、足を引きずるようにして歩く。

 青年が歌った滅竜歌はルーアの体を捉えていた。どうにか逃げ出したものの、転移するだけの力さえ残されていない。
 だがここで倒れるわけには行かない。ルカに伝えなければ。

「ルカ兄……みんな」

 勝手なことをした自分を怒るだろうか。呟いた瞬間、激しく咳き込んだかと思うと唇から真っ赤な血が溢れ出した。滴り落ちた血を拭い、再び歩き出す。そんな彼の耳に聞こえるはずのない声が聞こえた。

「ルーア!!」

 死にかけた自分の耳が捉えた幻聴。そう思い込もうとしても、向こうから駆けて来る存在。ルカと彼の肩に乗ったアルにイクセ、そしてリオンだった。

 目の前で崩れ落ちた血まみれの体を、ルカはイクセと共に支える。顔は真っ青で死人のよう。彼の体は傷ついていない場所を探す方が難しいほどぼろぼろだった。
 自らの名を呼ぶ声にルーアがゆっくりと瞼を上げた。露になったのは瑠璃色の瞳。いつだって美しく輝いていたはずのそれは今や輝きを失っている。

「ルーア!」

「早く手当てを。ルカ」

「う、ん……」

 呆然とするルカに促すようにイクセが言った。その声に我に返ったルカが魔歌を紡ごうと口を開く。だがそれをルーアは弱々しい声で押し止めた。

「もう、無駄だよ……分かるんだ」

「無駄なことなんて……」

「自分の……体だから」

 言われるまでもなくルーアは理解していた。自分の体のことは自分が一番よく分かるのだから。

 滅竜歌はマナとマナの繋がりを破壊する。ルーアの体は竜よりもその結び付きが弱い。人の手により作られた竜だから。彼の体は修復不可能なくらい破壊されていた。
 古代歌を行使したとしても、奇跡は起こらない。

『何故、こんなことをした?』

 今まで一度も口を開くことがなかったアルが低い声で問う。それ故に重い一言だった。
 感情を表すことの少ない彼にしては珍しく、金色の瞳には僅かな怒りと悲しみが浮かんでいる。

「僕の体は……限界、だったから……。どのみち長くはもたない。失敗作……だったから」

「隠していたのか」

 静かに紡がれたリオンの声に、こくりと頷く。
 アルとリオンにはルーアの状態が手に取るように分かった。彼の体から溢れ出す力。恐らくはずっと隠していたのだろう。
 ドラグーン唯一の完成体。それがルーアだ。

 しかし彼とて人の手により作られた存在。綻びが生まれるのは当然と言える。今のルーアは己の力を抑えるだけで精一杯。このまま放っておけば、暴走するのは目に見えていた。

「だからって……どうして言ってくれなかったの!?」

「ルカ兄やみんなに……そんな顔、させたく……なかったからだよ。力が抑えられなくなれば……僕は死ぬ。マスターとして、ルカ兄と僕は繋がってるから……危険なんだ。でも、僕は自分で死ぬことが出来ないから」

 茜色の瞳からこぼれ落ちる涙がルーアの頬を伝う。
 ルーアが力を暴走させれば、マスターであるルカも巻き込んでしまう。もし彼らがそれを知れば、自分たちなど省みずに方法を探してくれるだろう。

 けれど、そんな方法などない。この身は力に耐え切れず、崩れ落ちようとしているのだから。
 しかし兵器として作られたルーアは、自分で命を絶つことが出来ない。かと言って、皆に頼めるはずがなかった。自分を殺せなど。



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