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ルカディア
虫の知らせ
 皆、それぞれ出掛けているため、部屋に残されているのはルカだけだ。
 ゲイルとゼフィは情報収集に、アティとウィスタリア、イシュリアは夢幻の気配を追って街を出た。ルーアは未だ戻っていない。
 そこにリオンとイクセ、彼の肩に乗ったアルが入って来る。

『ルーアハはどうした?』

「考えたい事があるから散歩に出るって」

 ルーアがいないことに真っ先に気付いたのはアルだった。
 先程も自分がいてはルーアが弱みを見せられないから、と席を外してくれたのだ。冷たいようでいてこの竜は実に仲間思いなのである。

 心配しすぎだとアルの頭を叩いたのはイクセ。自分が始竜として生まれるはずだったと聞かされた時、正直頭が真っ白になった。自分を見失いそうになったと言っても過言ではない。

「ま、そんな時だってあってもいいだろ。俺だってそうだったからな」

「メシア、最近、無理して元気出してたみたいだしさ。きっとヴァイスファイトの器になったものの事、気にしてるんだろ」

「どういうこと?」

 リオンは一体、何のことを言っているのだろう。
 ルカがどういうことかと尋ねれば、アルもリオンも苦い顔になった。訳が分からないのは自分とイクセだけだ。

「イクセなら別だけど、人の肉体は始竜の魂を受け止めきれない。耐えられないんだ」

「え?」

 始竜が持つ力は強大。ドラグーンでさえその力に耐えられなかったというのに、人が始竜の魂を受け止めきれるはずがない。

 イクセは新たな暁闇の君として生まれるはずだった。始竜としての器である彼なら別だが、普通の人間は始竜の魂に耐えられない。肉体は即座に崩壊してしまうだろう。

『恐らく、あやつは人の身でありながら魔水晶を移植されたもの。ルーアハが生まれる前に生み出された存在。ルーアハは本能的に気付いていたのだろう』

 人でありながら始竜の魂を受け入れたもの。彼は恐らく、魔水晶を移植された実験体。そう考えれば、彼の体が未だ形を保っている理由が分かる。

 魔水晶を移植された青年と魔水晶を元にして作られた少年。彼らは同胞といってもいいのかもしれない。
 アルやリオンがあえてそれを口に出さなかったのは、ルーアを慮ってのことだ。真実は時に残酷で人を傷付け、突き落とす。

「だから……」

 泣いていたのか。マスターだと言うのに、ルカは気付けなかった。それが悔しくて情けなくて、少しだけ悲しかった。
 とその時、甲高い音を立てて床に転がったもの。それは冒険者を示す緑の宝石がつけられた耳飾り。止め具の部分が取れたのだろう。

「落ちたぞ」

「ありがとう、イクセ」

 拾ってくれたイクセに礼を言って耳飾りを受け取る。何故だか胸騒ぎがした。
 それを上手く言葉で表すことは出来ないが、この駆り立てられるような焦燥はなんだろう。杞憂に終わればいい。そう思いながら、ルカは耳飾りをつけた。



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あきゅろす。
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