アルカディア
過去の遺物
「何故お前だけが! 作り物の……紛い物のくせに!!」
彼らは己の体に竜の魔水晶を埋め込んだのだ。それには凄まじい苦痛が伴い、発狂死した者が殆どだったという。所詮、人の身では竜を越えられない。それが研究者たちに突き付けられた事実だった。
淡々と、だが不敵な笑みを浮かべて言葉を紡ぐルーアを、彼は射殺さんばかりに睨み付けていた。青年から吹き出す殺気は尋常ではない。始竜の力を受け入れたためだろう。
単純な魔力だけならルーアでも彼に及ばない。その上にここには、力を制御してくれるマスターがいないのだ。ルーアにとって致命的とも言える。
それでもルーアが焦る様子はない。むしろ予想していたように見える。まるでわざと彼の怒りを買ったように。
「確かにこの体も力も全ては作られたものだ。けど、心は違う。この心だけは僕のものだ。ルカ兄やみんなが育んでくれた」
ルーアは確かに紛い物でしかないのかもしれない。
けれど、この心だけは違う。誰かに与えられたものではない。あの人が気づかせてくれ、ルカたちが育んでくれた大切な宝物。全てまがい物だとしても、この心だけは本物。それだけは誰にだって否定させない。
「五月蝿い……まがい物は消えろ!」
その瞬間、風が不可視の刃となってルーアを襲う。竜と同じ。彼は短い、たった一言で魔歌を発動させた。
いや、この場合、喪歌と言った方が正しいかもしれないが。ただの魔歌でルーアが傷付くことはない。人間の魔力、ではだが。
しかしヴァイスファイトの力を受けた彼なら、ルーアを殺す事が出来る。
「初めて見た時からずっと殺してやりたいと思ってた。お前に何が分かる!!」
叫びと共に飛来する風の刃と魔力の奔流。ルーアはそれを魔力を纏わせた腕で振り払い、残った分を同じように風の刃をぶつけて相殺させた。
青年は強すぎる力を制御出来ていないのだ。
だがそれはルーアも同じ。自分の力に振り回されないようにするのが精一杯。何としてでも隙を突き、夢幻の真名を取り戻さなければ。
こんな危険なこと、ルカにはさせられない。いくら彼が望んでもルーアが嫌なのだ。もう、あの人のように守れないのは嫌だから。
目の前であの人の命が消えると分かった瞬間、ルーアを襲ったのはどうしようもない恐怖だった。
自分を理解してくれる人がいなくなる。それがどれほど恐ろしいことか。
「よく言うよ。過去の妄執に囚われているだけの哀れな人形が。時代に沿わない遺物は消えるべきだ。君も……僕もね」
口の端を吊り上げ、不敵に、それでいて寂しげに笑ったルーアは全ての攻撃を捌ききっている。望まなかったとは言え、戦いの記憶を体が、魂が覚えているのだ。
二人の魔力がぶつかり合い、激しい風が吹き荒れる。
ルーアも彼も、本来なら存在してはならないもの。過去の遺物は消えるべきだ、この世界から。
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